喫煙所

葉原あきよ

喫煙所

 我々は二十三日もの間ジャングルをさまよっていた。現地の人の話では二十日ほどで目的地にたどり着くはずだった。隊員の中にはだまされたのではないか、などと言う者もいたが、私はそうは思っていなかった。ここ数日スコールが降っていない。そのせいでハイザラの生育が悪いのだと考えた。

 我々が目指しているのは、ハイザラの群生地、幻の喫煙所だ。ハイザラはかつては世界各地に生息していた。しかし、乱獲され年々数が減っていき、今では絶滅危惧種に指定されている。そのハイザラが群生している喫煙所がこのジャングルにあると聞き、我々調査隊は派遣されたのだ。

「た、隊長!」

 先頭を進む隊員が私を呼んだ。私は逸る心を抑えながら、それでも足早に近づく。

「これは、すばらしい!」

 そこには見事な喫煙所が広がっていたのだった。広さにして十平方メートルはあるだろうか。熱帯性の木々の隙間に、腰の高さくらいのハイザラがびっしりと生えている。木々に絡まりロープのように垂れ下がっているツタが、私には聖域を示す注連縄のように見えた。そのくらい素晴らしい光景だった。二十三日間の苦しさも一瞬で吹き飛んだ。

「君たち、早く煙草を」

「は、はいっ!」

 背負った荷物から私は必死で煙草を探した。ハイザラは植物でありながら動物の気配に敏感だ。近くに動物がいると分かると一斉に地面にもぐってしまう。一度もぐると三日間は現れない。しかし、煙草の煙があると、動物の気配があってもハイザラはもぐらないのだ。

 早く煙草に火をつけなくては。それなのに、一緒に飲もうと持ってきたプルタブ式の缶コーヒーが邪魔して、煙草がなかなか見つからない。なんでこんなにコーヒーをたくさん持ってきたのだ? 他の隊員も、ライターや雑誌や新聞ばかりを並べている。

 私は焦っていた。そして、うっかりハイザラに触ってしまった。

「しまったっ!」

 ハイザラはあっというまに地面にもぐってしまった。喫煙所全体のハイザラが一気にもぐる様は実に壮観ではあったが。

「隊長……」

 私の隣にいた副隊長がうらめしげな視線を私に向けた。

「す、すまん」

 ハイザラがもぐってしまった後の喫煙所は丈の低い草と苔ばかりで、がらんとしている。

「三年ぶりに煙草が吸えると思ったのだが」

 やっと見つかった煙草を手に、私はがっくりと肩を落とした。

 ハイザラが貴重な植物になってから、煙草を吸える機会も減ってきてしまった。バイオテクノロジーで人工的にハイザラを培養する研究も進んではいるが、まだ実用段階にはほど遠い。

 手にした缶コーヒーを見つめる。これをハイザラの代わりにしては……。

「隊長。ダメですよ」

 私の視線から察したのか、副隊長が缶コーヒーを取り上げる。

「皆我慢しているんです。三日待ちましょう」

「すまん」

 私はただただ謝るしかできなかった。

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