第8話 謎の陰謀と日本への帰還



Side ???


横付けしてきた箱馬車の扉が開き、中から声だけが聞こえてくる。


「……それで、連絡してきたということは例のモノを見つけたのか?」

「へへッ。ええ、見つけましたぜぇ。

ただし、一つ予定と違うものが……」

「……何だ?」

「見つけたのは、ゴブリンではなくオークでしたが……」

「……」


俺たちはこの伯爵と名乗る貴族の依頼で、ゴブリンの集落をこの森の中で探していた。

依頼の内容に沿わない報酬の高さから躊躇するも、リーダーの判断で受けた。


俺たち下っ端の者は、ゴブリンの集落なんて何に使うのか怪しんだが、リーダーは何に使うのか分かっているようだが……。


「何人犠牲にした?」

「へい、三人です。

集落が近かったようで、少ない目印で済みました」

「……必要経費として、報酬に上乗せしておこう」

「ありがとうございます」


こういう森の中での、ゴブリンやオークの集落を見つけるやり方は、目印になる生贄を用意することから始まる。

ゴブリンやオークは女好きだ。


だから集落を見つけたいなら、女奴隷を使ったやり方が効率的だ。

ワザと、ゴブリンやオークに攫わせて、集落を見つけるやり方だ……。


「では後で、集落への案内を頼むぞ?」

「お任せください」


クックック、これで金貨一万枚になるなんてな……。

用意した女の奴隷は攫ってきた女だったし、リーダーの言うとおりに行動しただけで大金持ちだ。


少しして、箱馬車の中から黒服を着た初老の男が出てきた。

俺たちに向かって一礼してきた……。


「この男を、そのオークの集落に案内してくれ。

それと、報酬の半分の金貨五千枚を渡しておく」

「まいど~。

じゃあ俺の隣の男が案内しますんで」

「よろしくお願いします」

「……行ってくる」

「おう」


初老の男を案内するように、俺の隣の男が一緒に移動していった……。




▽    ▽    ▽




次の日の午後、俺の姿はダンジョンの外にあった。

そう、この世界に来ることになった都市伝説の通路だ。

ようやく二十四時間が過ぎ、再び都市伝説の道が繋がる時間となった。


……これで繋がらなかったら、元の世界への帰還は諦めたほうがいいかもしれない。

もちろん一年後の同じ日時に、道が繋がるかもしれないが……。


俺はポケットからスマホを取りだし、時間を確認する。


「もうすぐだな……」


現在ここに、パルはいない。

何故ならパルは、あの草原のダンジョンを出ると、ボーリング玉のようなダンジョンコアの姿になってしまうからだ。


それに危険度も増してしまうので、今回は見送りとなった。

またルーデスたちは、できる範囲でのオーク討伐を続けていた。


「時間だ。……三、……二、……一、……ゼロ!」


午後四時四十四分になって、今回は躊躇することなく都市伝説の道を進む。

すると、二、三歩進んだところで周りの景色がガラリと変わる。

木々の生い茂る森の中から、日本のある町の住宅街へと……。


昨日と同じく、住宅街なのに人の気配はしなかったが、元の世界に帰ってきたはず。



「あ、スマホで確認……」


俺は気づいて、すぐにスマホを取り出し電源を入れる。

すると、スマホから着信音が、何回も何回も鳴りだした。


どうやら繋がらない俺を心配した家族が、今朝から何度も連絡したらしい。


「……こういう時、心配してくれる人がいるのはありがたいよな……」


着信履歴を見ていると、ちょうどスマホが鳴る。

俺はすぐに出た……。


「はい、太一です」

『あ、太ちゃん?

よかったぁ、ようやく繋がった……。

今までどこにいたのよ!

ずっと、電波の届かないところって心配していたんだからねぇ』

「ごめん、姉さん。

ちょっと訳ありな場所だったから……」

『大丈夫? 危ないことしてない?』

「それは大丈夫」


たった一日連絡がつかなかっただけで、こんなに心配されるとはな。

姉さんは、過保護なのかも……。


その後、他愛もない雑談をして通話を切った。


「姉さんと話しているうちに、時間が過ぎてしまった……」


日本と繋がったことが確認できたら、すぐに異世界へ戻るつもりだったんだが、帰ることができなかった時のこともパルと話し合っておいて良かった。


こういう時は、まず落ち着ける場所に移動してから現状確認だ。

何故なら、向こうでも一日過ごす必要があったからな……。


「……とにかく、移動するか」


移動する場所は、俺が今住んでいるアパートだ。

高校進学と同時に、一人暮らしを始めて二年目。築年数が三十年と古いが、アパートにしては部屋が広くて過ごしやすく気に入っていた。


また家賃も良心的で、学生割引も使えて月三万円と安かったのも決め手になった。

本当に、いい場所が借りられたよ……。




▽    ▽    ▽




Side パル


「!?」


太一の気配が、ダンジョンの外から見えない壁を挟んだ向こう側に移った。

たぶんこの見えない壁という感覚が、世界の壁というやつだろう。


現在太一は、異世界にいる。

ということは、太一は元の世界に戻ったということだ。


私はすぐに周りを確認。

……ダンジョンは、問題なし。

……ルーデスたちの反応も、問題なく感じる。


「……どうやら、太一が別の世界にいても大丈夫なようだ。

後は、太一に持たせた魔道具が機能するかどうか……」


もしアレが機能すれば……。







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