はずせ!
盛大に墓穴を掘ったあの日から、僕は気が気でなかった。
八神さんが航輝さんのことを知っているとうっかり口を滑らしたことで、おそらく航輝さんは自分が知ってる情報網から八神さん見つけてみよう、と考えているだろう。
八神さんが自分のファンである、まで辿り着いたのであればライブ中それっぽい人を探すかもしれない。
動画サイトの生配信の日には流れてくるコメントから八神さんの文字を探すかもしれない。
写真も名前も出さずにすんでよかった。
ただ、もしも、万が一、航輝さんが八神さんを見つけ、好きになってしまったら……
……ないか!!!
ないない。
そんな訳ないのに、どこか寒い風が心に入るように不安な気持ちになる。
会いたい。
八神さんに会いたい。
先手必勝、ファンとバレた頃には、特定された頃には彼女になりましたと報告が出来るようになりたい。
どうしたら恋愛感情で見てくれる?
手を出してしまったことは反省はするものの後悔は全くしてない。
いや。
冷静になろう。
八神さんを航輝さんへのドッキリアイテムみたいに使うのは良くない。
僕はどうしたいのか。
八神さんと、付き合いたい。
なぜ?
八神さんが好きだから。
八神さんの航輝さんへの気持ちは?
考えていない訳ではないし、消えてないとは思うけどあくまで1ファンというだけ。狙い目はそこだ。
八神さんはシンガーソングライターのオノコーキに恋してる。
スマホの振動音がする。
急な連続音で驚いたが、電話がかかってきていた。
珍しい。八神さんから電話だ。
よっぽど急な用かもしれない。
「もしもし」
「もしもし、牧口君?今大丈夫?」
籠った場所での声がする。狭い空間にいるのだろうか?
「はい、大丈夫です。どうしましたか?」
「……お願いがあって、勿論無理なら断って大丈夫」
声に元気がない気がする。
「聞かせてください」
「うん。……今から私の職場まで来て、一緒に帰ってほしいの」
「わかりました。今から向かいます。すいません、念の為地図送って貰ってもいいですか」
「ありがとう。ごめんね。待ってるね」
電話が切れた。
八神さんの職場の地図と住所、ビルの名前がメッセージで送られてきた。
初めて行く場所だ。
僕は自他ともに認めるかなりの方向音痴だ。
タクシーを呼ぶ間に家から出る準備をする。
切羽詰まってる八神さんが待ってるはずなのに。
僕は会えることの喜びが勝ってる。
タクシーが来て、住所とビルの名前を伝える。
一度も職場に行ったことはないが、会社の受付業務をしていると聞いた事がある。
八神さんはドラマや漫画でよく見る、ビルに入ってお客さんに「アポとってますか?」と聞く仕事だよ、と言っていた。
男である自分を呼んだ、ということは恐らく面倒なお客さんが来ている可能性が高い。
時間は18時20分。
八神さんから送られて来た住所のビルに着いた。
思ったより大きいビルだった。
タクシーを降りたが待っていてもらった。
より安全性の高い可能性を保持していたかたったからだ。
ビルの自動ドアの前で着きました、と連絡をすると
「中から見えた。今から行くね」とメッセージが来た。
辺りはもう暗く、かなり寒かった。
自動ドアが空き、帽子をかぶりメガネをかけた女性に腕を引っ張られる。
八神さんだった。
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