小野航輝の疑念

まきしょーが本気で相手のことを好きだということがこの4ヶ月で伝わってきた。

聞くのも楽しいし、俺も学生のような気分でわくわくして聴ける。


しかし。

これは現実なんだろうか?

相手の女性というのはどんな人なのか今まで一度も聞いていなかった。

冗談にしては長すぎる期間話している。

そろそろ相手のことを聞いてもいいだろうか。


「なぁ、まきしょー」

「なんでしょう」

ほてった顔がおさまり、いつものまきしょーになっていた。

「今まで聞いて来たけどさ」

「はい」

「その女の子ってどんな子なの?」

「えっ」

「あまり、聞いてなかったから。俺も気になって来た」

「ダメです」

「いや別に盗ろうとかじゃなくて、…見た目とかさ、名前とかさ、いつも「例の彼女」って呼んでたし」

まきしょーは少し考えて、

「確かに。恥ずかしいので全然伝えてなかったですね。あとちゃんと実在するので安心してください」

「察しがよろしいようで」


そこで聞いた情報は、

彼女の名前は「八神さん」であること。

外見は主観だと可愛いこと。髪の毛は鎖骨くらいの長さであること。

性格は気さくで、さっぱりして、出会った頃も八神さんから話しかけてくれて、仲良くなったこと。

年齢はまきしょーより一つ上の歳で牧口君と呼ばれていること。


「お姉さんなんだ、八神さん。良い人そう」

「航輝さんと同い年です」

「聞いてる限り恋愛経験豊富そう」

「少し気になりますけど、グラタン男以降聞き辛くって」

「確かに。いい思い出じゃないだろうしなぁ。」

ヤリ捨て男といい会う度キスする男といい、意外と変な男から好かれるタイプなのかも。


「俺ならさらっと聞けそうだけど」

「えっ!?いやいいですよ!聞かないでください!」

「え?」

「あ」

冗談で言った言葉に対してはあまりに本気の嫌がり方だった。


「…俺の知り合いなの?」

「…」

「俺、八神さんを知ってるの!?」

「ところでナポリタン作りました?」

「いや無理無理!変えられないって話!マジ!?」

「墓穴を掘りました」

「マジじゃん!」


頭がぐるぐる回る。

八神さん…?自分の頭の引き出しから「や」の行を引っ張りだしても八神さんは出てこない。

夜神月しかいない。キラじゃない。


「下の名前は!?」

「言いません」

「気になるじゃん!ちょっとヒントちょうだいよ」

「あああ、絶対嫌です」

明らかに大きなため息が聞こえた。

「なんでだよ、もしかしたら仲良いかもしれないじゃん」

「それもちょっと嫌です」

「てか言ってよ、俺の知り合いだって」

「言うわけないでしょう」

「なんで?もっとお膳立てとか出来たかもじゃん」

「そういうことしてほしく無かったからです」

まきしょーはうなだれた。

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