保留

スープやグラタンの皿を下げてもらった後、俺は温かい緑茶を、まきしょーは山ぶどうスカッシュをドリンクバーから選んで来た。


「どうしてあんなこと言ってしまったのか僕にも分からないんです」

「恋だねえ」

まきしょーは普段から嘘を言わないし、言葉を選んで話せる男だ。

そんな男が、1人の女の子に対してこんなにも焦りを見せている様子は感慨深いものがある。

まきしょーはずずずと山ぶどうスカッシュを飲み、パンプキンプリンを食べ始めた。

「これから会ってくれますかね」

「会ったらキスするんでしょ?」

「します」

「即答かー。わかった。じゃあせめてする前に好きだって気持ちを言ってからしたら?」

「ああ、成程」

「前回はキスした後に言ったんでしょ?それは止めよう。完全に体目当て男だし」

「確かに。気持ちを伝えてから、する」

「そうそう。言えそ?」

「キスより難しいです」

キスの方が難しいような気がするけど、まあこの際いいか。


「相手もハンデ背負って会ってくれるんだ、それくらいこっちもやらないと」

「ハンデ…」

「そりゃそうだろ、友達と思ってたまきしょーと今まで通り会ったら、好きな人がいると公言してる中で、1番じゃ無い人からキスされるんだから」

「う…うーん」

まきしょーはダメージを受けていた。


「奪うんだろ?1番から彼女を」

「そうでした。奪うから、そういうことを言った…ような気がしてきました」

「ところでその1番くんはどんな人なの?勝てそう?」


うーん、と考えてまきしょーは言った。

「彼女目線の彼の話によると、話が面白くて、キラキラしてて、会う度に好きになるそうです。キュンキュンするー!とか今日話せた!とか嬉しそうに言ってます」

アイドルじゃん。


「ハードル高くない?だいぶ彼女の好き好きフィルターかかってたとしても、かなり好きめなんじゃない?」

まきしょーは大きいため息をついて、

「はぁ。そうなんですよね。聞かされるこちらの身にもなってほしい」

「いやそれは知らなかったからだろ、まきしょーが自分のこと好きだなんて」


たしかに、と頷いたまきしょーは

「キモいと思われてたらどうしよう」と呟いた。

「……」

否定出来ない。思われてるかも。

友達としてめちゃくちゃいい奴だけど、今の聞いたら女の子側は引くよな。

「もしかしてやらかしてます?」

「今頃?結構やらかしてるよ」

「なんとか挽回出来ませんか?秘密道具とかで」

「俺えもんは何も出来ません。反省してるんだからまず謝ったら?」

「急にしてすいませんでした、と?」

「そうそう。で、ここで気持ちを伝える。ほんとに好きですよって」

「はい」

「……で終わるのが1番いいと思うんだけどなぁ。キスしたいんだもんね」

「約束なんで」

「一方的なやつだろそれ」

「一方的……あ」

何かを思いついたまきしょー。

「行けそうです。閃きました」

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