第10話


 町長の家に行くと、そこにはメイドと見られる女の人がいた。

 町長がいるかと聞いたところ、メイドの人は教えてくれた。

 どうやら、先ほど回りすぎて、と言うかはしゃぎすぎてぎっくり腰になってしまったらしい。

 なんでそんな無茶したんだろう。

 僕が来ることがそんなに嬉しかったんだろうか。


「町長に何か御用ですか?代わりに私が答えますよ」


 使用人の女性は旅人と遜色ない真顔でそう言ってくれた。


「夜中にこの町彷徨うという呪いの子のことを知ってる?」


 旅人は単刀直入に聞いた。

 すると、女性は真顔からとてつもなく嫌そうな顔になった。


「あの子について聞きたいのですか?変わっていますね」

「まぁ、僕は実際変わり者だからね」


 嫌味と思わしき言葉を言われたが、旅人は全く気にしていないようで、相変わらずの真顔で女性の言葉に答えた。

 旅人は、まぁそりゃそうかと考え始めた。

 この町の中で呪いの子と呼ばれて恐れられている者について聞きたいなんて言うやつはなかなかいない。

 そりゃ嫌にもなるだろう。


「どんな些細なことでもいい。知っている情報を教えて欲しい」


 旅人が懇願すると、女性は答えてくれた。


「呪いの子はいつも本を持ってどこかに出かけて行きます。これ以上は何も言いたくありません。あの容姿を思い出すだけで、ゾッとする」


 本を持って出かけていく子供で、容姿が周りとは少しだけ違う、と。


「わかった。教えてくれてありがとう」


 旅人はお金が入った袋を出した。


「え、なんでお金が入った袋を出すんですか?」


 メイドは突然そんな行動をし始めた旅人に戸惑っているようだ。


「慰謝料だよ、いやそうな顔してたのに、教えてくれたから

「そんな、いいのに」


 旅人は半ば押し付けるようにして、メイドにお金を渡した。


「いいからいいからもらって」


 無理やり渡すと、メイドは渋々頷いた。


「わかりました。ありがとうございます」


 旅人はメイドが賄賂…ではなく慰謝料を受け取ってくれたことにほっとして、メイドの女性に別れを告げ、別の人の元へと向かった。



「あの子について聞きたいのかい?」


 旅人は今度は先ほどリボンらしきものを持って旅人を歓迎してくれた人の中にいた男性に聞いてみることにした。

 使用人の女性と同じように、男性はとても嫌そうな顔をしていた。


「別にいいけど。お代は?」

「払うよ。慰謝料として」


 旅人が頷くと、男性は後頭部をかきながら教えてくれた。


「そうだな…あの子が住んでいるのは町長の屋敷の裏にあるボロい物置小屋だ。よくあんなところに住めるよな。俺だったら絶対無理」


 男がそう言ったので、旅人はふとあることが気になって聞いてみることにした。


「どうして、そう思っているのに助けようとしないの?」


 旅人がそう聞くと、男性はさも当たり前のような表情をしていた。


「だって、あいつの目の色が俺たちに移ったら嫌だろう?」

「…そう」


 旅人は真顔でそう答えることしかできなかった。

 気になることは増えたが、とにかく今は調査の方に集中だ。

 今集められた情報は、呪いの子は町長の家の裏の物置に住んでいること、それから不思議な目をしていること。


「ありがとう、これお代」

「おう」


 旅人は男にお代を渡して別の人の元に向かった。

 


 旅人は今度は、子供がたくさん集まっている広場に向かった。

 子供なら、大人のように隠さずに全てを教えてくれると思ったからだ。


「ねぇ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」


 旅人が一人の子供に声をかけた途端、別の子供がわらわらと集まってきた。


「なぁに?」

「えー!誰々このひと!」

「お兄さんおもしろいかみだねー!」

「目超キレイ!!」


 子供がわらわらとやってきて、だんだん身動きが取れなくなってきた。

 ちょっとまずい気がする。


「待ってみんな!もしかしてこのひと、あの旅人さん…」


 お?もしかして子供の中にも賢い子がいるのか…?


「の子孫じゃない!?」


 うん、なんでそっちいったんだ?

 旅人は子供相手にマジツッコミをしそうになった。


「えー!?お兄さんしそんなのぉ!?」

「すごおーい!!」


 子供はキラキラとした目で旅人のことを見てくる。

 ここから弁解したとしても、もう意味はないだろう。


「もうそういうことでいいからちょっと話を…ぐえっ」


 子供達は旅人の背中にぴょんと飛び乗ってきたり、ケープを遠慮なく引っ張ってきたりしている。

 首がしまって、旅人は死にかけである。

 子供の相手は苦手ではないが、ガンガンこられてしまうと、どうすればいいのかわからなくなってしまう。


「ねぇ、お兄さんは何が聞きたいの?」


 そのうちの女の子が旅人のケープを軽く引っ張ってきた。

 遠慮がちに引っ張ってきたこの子は、どうやら話がまだわかるようだ。

 たまにいるこういう子、結構助かるんだよな。


「うん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど…ごめん一旦背中から降りてくれる?」


 旅人は背中にいた子供にそう声をかけた。

 子供は渋々と言った表情で、おとなしく背中から降りてくれた。


「それで、聞きたいことなんだけど」


 旅人はコホンと咳払いをした後ケープを直しながら子供達に聞いた。


「この中に、呪いの子と呼ばれてる人について知ってる人はいる?」


 旅人がそう聞くと、何人かの子供が手をあげて答えてくれた。


「知ってるよ!!」


 誰よりも早く答えてくれたのは、周りよりも一回り二回りほど身長が小さい女の子だった。


「とりあえず、今手を上げてくれた子には順番に聞いてくよ」


 旅人はそう言って、一番初めに声を上げてくれた女の子の目線と自分の目が合うようにしゃがんだ。


「それじゃあ、まずは君からだね何について知ってるのか教えてくれる?」

「あのこはね、絶対にちかづいちゃいけなんだよ!お母さんたちに言われたの!」


 女の子が答えてくれると、今度は違う男の子がなぜか答えてくれた。


「あのこはねー不思議な見た目をしてるんだよ」


今度は違う男の子が答える。


「本が大好きな子でねー」

「うん、順番に聞いてくからちょっと待ってね?」


 旅人は真顔で彼らにツッコんだ。

 先ほど女の子が答えてくれた中で気になったことがあったので、聞いてみることにした。


「君がさっき言ってくれた不思議な見た目をしているって、どんな見た目をしているのか教えてくれる?」


 旅人が質問をすると、女の子は快く頷いてくれた。


「うん、いいよ!えっとね、髪の毛は私たちとおんなじ水色なんだけど、目の色が右と左で違うんだよ。こっちの目が黄色で、こっちの目が黄緑!」


 旅人はハッと気がついた。

 本が好きで、片目ずつで目の色が違う少年。

 彼らが言っているのは、あの時ぶつかった少年のことを言っているのかもしれない。


「わかった教えてくれてありがとう」


 旅人は礼を言って立ち上がった。


「旅人さんの子孫さん!」


先ほど目の色について教えてくれた女の子がそう声をかけてきた。


「何?もしかして何かまだ言い忘れてたこととかがあるの?」


 旅人はもう一度、女の子の目線に合うようにしゃがんだ。


「あの子には絶対ちかずいちゃいけないんだよ、だってそうじゃないと、あの子の目の色が移るってお母さんたちが言ってたんだもん」

「旅人さんも気をつけた方がいいよ!あいつ何してくるかわからないからね!」


 小柄な少女が言った後、他の子供達はなぜか笑いながら言っていた。


「…うん、ありがとう」


 旅人はなんとか返したが、子供達の間ではもう別の話題に変わっていて、旅人の声はもう聞こえていないようだった。

 子供達の元を去り、旅人はあの少年を探しにいくことにした。

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