第10話 ルックプラス
錆びついた金属の樽が、まるで生き物のように床の上を転がり、彼らの目の前で止まった。そして、その蓋がゆっくりと、不気味な音を立てて開いていく。
「…まさか、まだ何かあるのか…?」
課長が震える声でつぶやく。開いた蓋の向こうの暗闇から、光る何かが微かに瞬いていた。それは、まるで目に見えない液体が泡立っているような、不気味な光だった。
ケンジが恐る恐る中を覗き込むと、そこに広がるのは、液体で満たされた樽の内部だった。そして、その液体の中から、無数の泡がブクブクと音を立てて湧き上がってくる。
「これは…カビ…?」
清掃パートの女性が、鋭い嗅覚でその正体を見抜いた。樽の中の液体は、何十年も前に放置された、強力なカビ洗浄剤だった。しかし、その液体は、長年の放置により変質し、異様な光とガスを発していた。
「このガスを吸い込んだら、危険だ!」
女性が叫ぶと、樽からガスが噴出し、工場の床に広がる。ガスは床に付着すると、まるで生き物のように蠢き、黒いカビの塊へと姿を変えていく。
「くそっ! なんて汚い…!」
タカシが顔を歪める。カビの塊は、工場の床を侵食し、機械や資材にまで広がり始めた。このままでは、工場全体がカビに覆われてしまう。
「…こんな時こそ…!」
ケンジは、ポケットからスマートフォンを取り出し、画面をタップする。そこには、過去の従業員が残したメモが保存されていた。
「この液体には、この工場の特殊な汚染物質を分解する効果があるらしい。ただし、もう一つ、必要なものがある」
メモの最後に書かれていたのは、「ルックプラス」という言葉だった。
「ルックプラス…? そんなもの、どこにあるんだ?」
ケンジが首をかしげると、清掃パートの女性が、静かにモップを構え直す。彼女の目は、工場の一角にある、埃をかぶった棚を捉えていた。
「…あった。あの棚の中に…」
彼女が指差した先には、古びたパッケージが一つ。そこに書かれていたのは、確かに「ルックプラス」という文字だった。
「あれを、あの樽の中に入れれば、ガスを中和できるかもしれない!」
彼らは、最後の戦いに挑む。清掃パートの女性が、そのモップの穂先で棚を叩くと、埃をかぶった「ルックプラス」のパッケージが、彼らの足元へと転がり落ちてきた。
彼らの運命は、この小さなパッケージに託された。はたして、彼らはこのカビの脅威から、工場を救うことができるのか?
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