前のエピソード――第7話　天井

　USBメモリの中の日記には、さらに続きがあった。工場長の遺言めいた文章が、彼らの心を揺さぶる。

「…この工場が、どんなに時代遅れになろうとも、働く人々の心は常に進化し続ける。この工場を支えてきたのは、いつだって裏方で働く者たちだった。清掃員、警備員、そして名もなき作業員たち…。彼らの存在があってこそ、この工場は今日も息をしているのだ」

　その言葉は、清掃パートの女性の心に深く響いた。彼女は、自らの過去の傷と、この工場で生きる人々の想いが重なり合うのを感じた。

「そうか、私たちは一人じゃなかったんだ…」

　ケンジがポツリとつぶやいた。彼もまた、派遣という立場で、時に孤独を感じていた。だが、今、彼らの視界は、単なる目の前の仕事から、工場全体を支える**「裏方」**の視点へと広がっていた。

　彼らは、早速行動に移した。清掃パートの女性は、工場内の見えにくい場所、機械の裏側、設備の隙間など、これまでは誰も気に留めなかった「裏方」の清掃を徹底し始めた。タカシとケンジは、資材置き場の整理整頓を行い、作業効率だけでなく、安全面も向上させた。課長は、彼らの活動を全面的に支援し、必要な道具や人員を確保した。

　彼らの地道な努力は、すぐに結果として現れた。工場の生産性は向上し、作業中の事故も激減した。そして何より、誰もがこの工場を「自分たちの場所」だと感じるようになった。

　それは、工場の床を磨き続けた清掃パートの女性の汚い手が、天井から落ちてきた小さなUSBメモリが、そして何より、彼らが共通の敵を前にして得た絆がもたらした、最高の奇跡だった。

「私たちは、この工場の光だ」

　清掃パートの女性が、モップを構えながら微笑む。その言葉に、ケンジ、タカシ、そして課長が、力強く頷いた。

　彼らは、今日もまた、この工場を支える裏方として、誇らしげに働き続けている。

　清掃パートの女性がモップを握り続けた理由、そして彼女が**「裏方」**という言葉に特別な意味を見出したのはなぜだったのでしょうか？