第6話 汚い手

​「みんな、下がって! この工場は、もう誰にも汚させない!」

​ 清掃パートの女性が叫び、先頭に立って暴走する草刈り機へと向かう。ケンジもタカシも、そして課長も、その背中を信じ、後に続いた。

​ 草刈り機を操るサトウは、狂ったように笑う。

​「無駄だ! 俺の汚い手で、お前らの工場を血まみれにしてやる!」

​ サトウがレバーを倒すと、草刈り機の刃がさらに高速で回転し、轟音を響かせた。女性はモップを構え、その回転する刃を寸前で避ける。

​「清掃動線…!」

​ ケンジが叫んだ。彼女の攻撃は、常に工場の清掃動線に沿っていた。ケンジはそれを読み、草刈り機の動きを予測する。

​「左だ! 左へ行け!」

​ ケンジの指示に従い、女性は俊敏に体をひねり、草刈り機の突進をかわす。だが、サトウはしつこく追いかける。

​ その時、課長がハンドリフトに乗って突進してきた。

​「サトウ、お前には負けん!」

​ 課長が操るハンドリフトは、草刈り機とぶつかり、激しい衝突音を響かせた。サトウはバランスを崩し、草刈り機が地面に倒れ込む。

​ その隙を逃さず、タカシがパレットを振りかざしてサトウに襲いかかる。

​「お前なんかに、工場は汚させない!」

​ タカシの渾身の一撃が、サトウの手から草刈り機を弾き飛ばす。草刈り機は宙を舞い、工場の壁に激しくぶつかり、バラバラに砕け散った。

​ サトウは呆然と立ち尽くす。彼の汚い手は、何も掴むことができなかった。

 ​清掃パートの女性は、倒れたサトウの前に静かに立つ。そして、モップを置き、彼の手をそっと掴んだ。

​「その手は、汚れてなんかいない。ただ、寂しかっただけでしょう?」

​ 彼女の言葉に、サトウの目から一粒の涙がこぼれ落ちる。

​「…俺は、居場所が、欲しかっただけなんだ…」

​ サトウの嗚咽が、静かになった工場に響く。

 ​清掃パートの女性は、何も言わずに彼の手を握り続けた。その手は、長年の清掃作業で荒れていたが、温かく、そして優しかった。

​ こうして、工場の騒動は幕を閉じた。そして、正社員と派遣チーム、そして清掃パートの女性は、この工場を、そしてお互いを守るために、共に歩んでいくことを誓ったのだった。

​ この戦いを経て、彼らの間に生まれた絆は、もう誰にも引き裂くことはできないだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る