第3話 トンファーバトンの舞
清掃パートの女性が放つ異様なプレッシャーに、正社員チームと派遣チームは一瞬、動きを止めた。彼女は、まるで長年の訓練を積んだ武道家のように、手に持ったモップを構える。その姿は、これまでの工場従業員のイメージとはかけ離れていた。
「この工場を汚すなら、お前たちを掃除するまでだ」
女性がモップを振るうと、その動きに合わせて先端のモップヘッドが回転する。まるでそれは、格闘技の武器、トンファーバトンのように見えた。
彼女はまず、タカシが構えるパレットに狙いを定めた。タカシが必死に防御するが、モップの回転が生み出す強力な打撃がパレットを弾き、タカシの手から滑り落とさせる。
「うわっ!」
タカシは態勢を崩し、その隙を逃さず、女性はモップの柄の側面をタカシの腹部に叩き込んだ。
タカシが倒れると、次に彼女はケンジに向き直った。ケンジもまた、業務用トングを構え、警戒する。
「あんた、一体何者なんだ?」
女性は何も答えず、ただ静かにモップを構え直した。そのモップの穂先が、まるで生き物のようにケンジの喉元を狙う。
ケンジはとっさにトングで受け止めるが、モップのしなやかな動きに翻弄される。彼女の放つ打撃は、予測不能な軌道を描き、ケンジの隙を突いていく。
正社員と派遣、互いに憎しみ合っていた両チームだが、今は共通の敵を前に団結するしかなかった。
「ケンジ、俺が援護する!」
課長がハンドリフトで女性の背後を突こうとする。しかし、女性は振り返ることもなく、モップを背中に回してハンドリフトの車輪に引っ掛けた。
「無駄なことを」
女性が力を込めると、ハンドリフトはバランスを崩し、課長もろとも倒れてしまう。
絶体絶命のピンチ。しかし、ケンジは女性の動きの中から、ある「癖」を見抜く。彼女の攻撃は一見、無差別に思えるが、実は常に工場の**「清掃動線」**に沿って動いていたのだ。
この戦い、ケンジは彼女の動きの癖を利用して逆転できるのか?
それとも、清掃パートの女性が、この工場で最後の勝者となるのか?
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