別れの季節

次の学年に上がる前の最後の学期、体育館に全校生徒が集められ集会が行われる。

そこで突然の“別れ”が訪れる事となった。


「え〜、皆が次に新たな学年へと上がる素晴らしい日の前に、ここで残念なお知らせになります。我が高校を離れる事となった“影山”先生から皆さんに最後のメッセージをいただきたいと思います。お願いします影山先生どうぞ…」


校長先生の長々とした退屈な演説が終わったと思ったら、衝撃的な言葉が耳に入る。

聞いてない。俺は一切聞いてない。あんなによく喋ったのに一言も彼は俺にもどの生徒にも“やめる”なんて言っていなかったのである。


『えー…他の高校に…みんなとの思い出…』


俺の耳には何も入ってこなかった。まるで耳が何かで塞がれてるような、宇宙服のヘルメットでもして無重力で無音の宇宙に投げ出されたようなそんな感じで、彼の言葉が一切聞こえなかった。俺は昔からショックや不安を抱えると急に耳がキーンと鳴り無音になる感覚になることがある。まさにそれだった。

自分の心臓の鼓動しか感じれない。何を言ってるのか聞きたいのに脳が聞こうとしない。

その後は何があったかあまり覚えてない。気づいたら集会は終わってて、俺は体育館の出た先の誰にも見られなさそうな階段に座って泣いていた事だけが記憶にある。


何泣いてんだ⁇高校生にもなって大の男が、先生1人がいなくなるってだけでこんなに泣いてダサくね⁇と言うかなんでこんなに悲しいんだ⁇

当時の俺は全くわからなかった。ただただ訳もわからず溢れて来る涙を、学ランの袖で拭い続けるしかない…


涙がどうにか止まった後、職員室を覗いてみたら、影山先生は仲が良かったのであろう先生たちに囲まれて、別れを惜しまれてる姿を見た。「飲みに行こうよ〜」「お別れ会だ〜」なんて聞こえて来たりする。生徒からは変な先生だと思われてたが、教師同士では普通に仲良くやってたみたいで、俺は安心した。それと同時に、なんで何も言わなかったのか俺には⁉︎って怒りで、その時の俺は彼に何も話せないままお別れとなったのである。ツンデレってやつか⁇


男子校だったからか、誰も寄せ書き書こうよ〜とかお花送ろうよ〜とか言い出す奴もいなくて、先生たちだけで送り出す形となった。生徒側のみんなどんだけ彼に興味なかったんだって思う。俺はこんなに彼がいなくなる事に衝撃を受けたのに…

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