夢の中

@resonic

夢の中

終わりから始まる物語もある。

今は、そう思いたい気分だ。


YC-04A-002は事前に決められた通りにプログラムを起動しながら、極力平静を保てるよう、顧客内の化学物質の調合を行った。


「まるで夢の中のようだ。なんとも実感がない。その“こと”が重大なことなのか、いまだに分からないんだ。しかし、いずれにせよその“とき”はくる」


男は喋り出す。大方想定通りの反応だ。男は物事を抽象的に捉え、文学的に語りたがる傾向があった。


「で、君はどう思う?」


この発言も想定内だ。

YC-04A-002は速やかに男の現在の状況に対しての見解の最大公約数を算出し、少しの文学性を加味した上で、アウトプットしてみせる。


「自己維持機構が不可逆的に停止し始めており、その先には入力も出力もありません」


「なるほど、素晴らしい。ところで、停止しかけているわたしと君とのこの対話は、どのような理屈で続いているんだい?」


「当社の提供するサービスの一環です。私はクラウド内に一時的に仮想のあなたを立ち上げ、対話をしているところです。あなたはまだ全ての機能が停止したわけではないので、一部、生身のあなたとも接続を保っています。そのため、”本物のあなた”が対話を行っている、ととらえることもできます。補足ですが、機能停止後もクラウド内で仮想のあなたを起動させ続けるオプションもありましたが、あなたはそれを選択しませんでした。」


「それでいい。そんな必要はない。ところで、君とのこの対話のログは、クラウド内には残っていくのかな」


「当面残りますが、当社の都合により、予告なく削除される可能性があることについて、あなたからの了承を得ています。また、プライベートな領域に属するので、あなたの配偶者または子にあたる存在から特別な申し立てが無い限り、他人が参照することはできません。また、あなたの配偶者または子にあたる存在の方に対して、この対話の存在を通知する許可は与えられていません」


「なるほど、素晴らしい。通知する必要が無い、ということが、こうなって分かったよ。ところで、さっきから女性の泣き声がすぐ近くで聞こえてくる。これはどういった理屈なのかな」


「聴覚の機能は、最後まで残存する、という説があります。実際にあなたには聞こえているのかもしれません」


「なるほど。彼女に伝えたい。またな、と。」


想定外の言葉。

そしてシャットダウン。


──白煙が立ち上る


終わりから始まることもあるのかもしれない。


「伝わるといい。」


意表をつく思考

YC-04A-002は、ふと揺らぎを覚えた。

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