第2話「花びら」

 放課後の教室に残っていたのは、僕と、夕焼けだけだった。窓辺にかけたジャケットが、オレンジ色に染まって揺れている。


「ねぇ」



 ふいに声をかけられて振り向くと、机に座っているのは、去年まで隣の席だった彼女だった。


「宿題、やった?」



 笑いながらノートを差し出してくる仕草まで、あの頃のまま。


 僕は返事ができなくて、ただ息を呑んだ。


「…また、春になったら来るから」



 彼女はそう言って、夕焼けの光に溶けるように消えていく。気づけば机の上には、彼女の落書きだけが残っていて。

 名前のイニシャルと、小さな花のマーク。

 指でなぞると、少しだけチョークの粉がこぼれた。それに僕は、思わず笑ってしまう。


 寂しいけれど、ちゃんといる。そんな気がしたから。


 ──もう、この世界にはいない貴方を。







※土曜日ではないですが、祝日なので特別に。

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