ティータイムの欠片

蒼空花

第1話「切符」

 夜の駅のホームで、少年はひとり、終電を待っていた。
 線路の向こうには誰もいないはずなのに、ふとした瞬間、こちらを見ている視線を感じる。


「…またか」



 そう呟いて、彼は足元の切符を握りしめる。
 いつからだろう。電車を待つたびに、見知らぬ“誰か”の気配がまとわりつくようになったのは。

 やがて、アナウンスが響く。


「間もなく、最終列車が参ります」


 その声と同時に、背後から誰かが囁いた。


「行くの?」


 振り返っても、誰もいない。けれど確かに、耳元で息を感じた。

 列車が到着する。ドアが開き、誰も乗っていない車内が静かに待っている。


 少年は躊躇したまま、ポケットの中の切符を見つめた。


 そこには日付が書かれていない。

 …今日でも、明日でもない。


「ずっと“前の日”の切符」


 ホームに吹く風が、背中を押した。彼は小さく息を呑み、足を踏み出す。

 扉が閉まる。列車が走り出す。


 窓に映った自分の姿の隣で、知らない誰かが、確かに笑っていた。

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