第40話 アリスと組長
ガラリと屋敷の扉が開けられる。
すると、中にいた人たちは空天を見るや頭を下げて「おかえりなさいやせ!!」と声をかけてくる。
この対偶を見るにこの空天は、この組の中で結構高い位にいるのだろう。
アリスはそれが気になり、神威に小声で話しかけた。
「ねぇ、空天さんって結構偉い人?」
「そうでござるなぁ、霊幻殿の右腕のような者であるだろうな」
ここの会長の右腕。それって国の中でもトップクラスの実力者なのだろう。
アリスはここで思い出した。【幻想の世界】は元反理のメンバーであることを。
それを思い出し、更に空天の実力が計り知れなくなる。
アリスが興味と不安で天空を見るが、空天はそんなもの気にも留めずに屋敷の中を歩き進める。アリス達もおいて行かれまいとついていく。
階段を上へ上へと昇り、最上階である五階の一番奥の部屋へと行った。
空天はそのドアをコンコンとノックする。
「霊幻さん、お客様をお連れしました」
「あぁ、入れ」
「失礼します」
空天は扉を開き、閉じないように持った。そして、アリス達にどうぞというような合図を手で送った。
アリス達は意味を理解し、お辞儀しながら入っていった。
「失礼します。金級冒険者【世界種】アリスです。パワーレス・ルールドの紹介で来ました」
「同じく、金級冒険者【炎種】紅桜 神威」
「金級聖職者【絶対なる神の契約】ルクス」
部屋の中央には大きなガラスの長机が置いてあって、それを挟むようにソファが左右に置かれていた。
扉を開けた正面には大きな机と黒い高級そうな椅子がある。その椅子の上に霊幻は座っている。
霊幻はパワーレスやステラと同じくらいの年だろう。
真っ白な髭はないが、長い髪を後頭部で丸く纏められていた。
だが、目も白いことが不思議であった。歳故なのか?それとも魔法的ものなのだろうか?
「よう、来た。話は聞いている」
声は低く所々掠れているが、しっかりと芯の通った声でしっかりと耳に刺さる。
「儂が聞いていたのは三人だったが、ルクス君と言ったかな?君はこの二人の仲間か?」
「はい、シエルから同行させてもらっています」
「シエル...もしかして、ステラの所か?」
「...はい」
そう答えるルクスの声は少しだけ重々しく苦しげだった。
それもそうだろう。ステラは裏切り者ともいえるような存在だ。
「そうか...大変だったな。まあ、あれだ。奴を頼む」
その言葉の意味は分からない。ただ、懐かしみと悲しみ、期待が含まれることは分かる。
だが、彼を救ってほしいのか殺してほしいのか、それが分からなかった。だがきっと、その選択をもまかせようとしているのだろう。
それも込めての期待。
「レスから話は聞いているか?」
「いいえ、特には...」
「ハァ、やっぱあいつ何も言ってなかったんだな...あいつは、魔法と世界について教えてやってくれ、と俺に頼んできたんだよ」
アリスも初めて聞いたことに驚きを隠せなかった。
確かにパワーレスは魔法を使えない。だからその分、アリス達を強くするために霊幻に託したのだろう。
零幻は、ため息を一つこぼして言葉を放つ。
「魔法を教える前に四つほど聞きたい。一つ、適性属性。二つ、固有魔法。三つ、世界を創造できるか。四つ、ゾーンに入ったことがあるか」
世界の創造はここ最近、ちょくちょく聞くようになったが、ゾーンというのはあまり聞かない。
ゾーンは、領域、地帯という意味があるが、この場合の意味としては、没頭、集中などだろう。
それに入ると極度の集中力とそれに伴う普段の質を超えるパフォーマンスを得るという。
意味は分かるがそれに入ったことなど三人ともなかった。ゾーンに入るのはいつものパフォーマンスを圧倒的に超えなければならないと聞く。
至高の一撃。それがゾーンに入る条件とされている。
一応、そういうものがあるという知識は三人にあった。
「では、アリスから聞こう」
霊幻はアリスの方を向く。
「適性属性は光、雷、風の三つです。固有魔法はまだよくわかりませんが、〈アリスと不思議な国〉という名前なことは分かっています。世界の創造はできませんが、塗り替えることならできます。ゾーンに入ったことはありません」
「まぁ、そこそこか。あと一歩ってところか。次、神威」
「適性属性は炎・風。固有魔法は炎系の神だと思います。世界には触れたことがありません。ゾーンもないです」
「技は良いが、その他が微妙だな。経験が必要だ。次にルクス」
「適性属性はありません。固有魔法はメタトロンとの契約。世界の創造はでききませんが侵入と破壊はできます。ゾーンは二人と同じくなったことはありません」
「変わり種って感じか。それにしても適性属性無は珍しいな...まぁその分、何かの才能があるのだろう」
三人の答えを聞き、うーんと唸るように考えた。
「まぁ、まずはゾーンに入るところからだな。ゾーンについてわかるか?」
「いえ、なんとなくぐらいしか...」
三人が分かるのは何となくこうなんじゃないのか?という仮定でしかない。本当のことなど分からないのだ。
「ならそこから説明しよう。ゾーンとは集中等の極限状態のことで、その間中は魔力的感覚、肉体的感覚、思考の速さ、身体能力、集中力、それらが段違いに上がる。魔力的感覚が高まることによって魔法に対する理解も深くなる。そのため、魔力変換効率や魔力の流れの精度が上がっていく。者によっては、己の固有魔法の片鱗に触れ覚醒する者もいる。だが、あまりの情報力が入ってきて思考が追い付かなくなることもあるがな。まぁ、そんなことはそうない。一気にそんな量の情報を知るとなれば、魔法全体の情報量がえげつないことになるからな。次に、」
「あ、あの...」
アリスは話を遮るのは悪いと思ったのだが、気になってしまった。
「どうした?」
「例えばどんな魔法なら情報量がやばくなることがあるんですか?」
「そうだな...神話級らへんはなることがあるだろう。まぁ、そのためにも今のうちに経験しておく必要がある」
戦いの中で思考を停止させないためにも、今のうちに経験しておいて危険をなくす目的もあるのだろう。
「ほかに質問がなければ続けるぞ。なさそうだな、まぁ言ってもさっきのが殆どだ。まぁ、言うとするならこの世界に対する理解が深まる。ついでみたいに言ったが、これが大分重要だ。世界の創造はこの世界に派生させて作る」
その説明を受けて三人はポカァと口を開けていた。
それを霊幻は見て、困ったように頭を掻く。
「説明が難しいな。そうだなぁ...」
霊幻は考えながら、周りを見渡しているとそれを見つけた。
「そうだ。このコップを見ろ。水滴がついているだろ?これが創造した世界。創造した世界はこの世界であって、この世界ではない別の世界というわけだ。アリスなら感覚は分かるだろう?」
「はい、自分の魔法の中にいるような...まるで自分が無敵であるかのような全能感がありました」
アリスは過去、自分の世界に塗り替えた時の感覚を思い出しながら語った。
「そう、感覚としてはそんな感じだ。もっと、場所的な感覚はないか?」
「...壊れたときは、真っ暗な闇へと落ちていった。そして気づいたら元の場所に戻っていた」
不思議な話だ。真っ暗な闇、そこは元居た場所ではなかった。だが、気が付くと元の場所にいる。
世界が真っ暗な闇の中にできているとしたら、どうやってそこに行っている?どうやってそこから帰ってくるのだろうか?
「そういうことだ。この世界ではないまったくもって別の世界を創造している」
「じゃあ、どうやってその世界に行っているんですか?」
「さぁ?まぁ多分だが、発動した一部ごとを別の場所に移動しているって感じだろう。世界が破壊されたら元の場所に戻るようになっている。原理は知らん」
結局のところ、誰も何もわからない。ただ、そういう技として存在しているだけだ。
「まぁ話を戻して、ゾーンを決めるのにいい相手がちょうどいる。東の方で暴れている屍龍だ。君たち三人と補助として空天、俺の孫娘の三人で行ってもらう」
屍龍。それは、ネクロマンス、霊、意思によって生まれる龍だ。
龍の中には人に友好的な聖龍と人に非友好的な悪龍がいる。屍龍は悪龍だ。
龍の討伐推奨は英雄級一人。または、白金級二人か金級二十人以上とされている。
「討伐推奨はどのようになっているでござろうか?」
「確か、英雄級依頼だったはずだ」
英雄級依頼。英雄級一人で討伐できるということだ。
それ相手にゾーンを決めるという縛りと緊張を持って、戦うことになった。
歯車は静かに動き始めていた。
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