第24話 アリスと遊び人

 世界は半球体のドーム状だ。

 中央はグラウンドのようなものが広くとられており、そのグラウンドを囲うように段々と上に上がっていく観客席。赤と白できた壁と天井。

 この中は、サーカスのテント内というのがふさわしいだろう。


「さぁ、始めよう俺たちのパレードを!!」


 その言葉と同時に、指を「パチン」と鳴らした。

 その音がアリスの耳に届くのと同時に、何もないところからナイフが出てきて、全方向から飛び交った。

 このナイフの猛威を避けるには、生身の体は厳しいだろう。ならば、生身の体でなければいいのだ。


「〈雷光一閃〉」


 アリスは、レイピアを急いで鞘から抜き出し、構えをとる。そのまま、雷となってナイフの隙間をすり抜ける。そして、そのままジェスターの腹を抉った。


「君はやはりいいな」


 ジェスターの腹はみるみる快復していった。


「この世界では、俺は不死身だ」

「不死身...!?」


 アリスはそう、ボソリとつぶやいた。

 不死身。文字道理、死なない体。

 だが、そんなものが長く継続できるはずがない。この世界には制限時間があるか、魔力の消費が激しいかのどちらかだろう。

 けれども、その時間の間ずっと逃げるのは不可能だ。さっきのナイフだって挨拶みたいなものだろう。

 ならば、試すしかないのだ。アリスの世界を。


(ハーメルンの夢の世界を塗り替えた時を思い出せ!!自分を中心に、今いる世界が自分の魔法で塗り替えるように、侵食するように)


「〈不思議ワンダー世界ワールド〉!!」


 アリスから放たれた魔力が、世界をじわじわと侵食していく。

 だが、この世界からもアリスの世界へ侵略をする。いや、侵略を防ごうとしているというのが正しいだろう。


「驚きましたねぇ。これじゃあ、君がハーメルンを倒したのも頷ける」


 ジェスターは余裕の笑みを絶やさずに話しかけてくる。


「ハーメルンは最後、何か言っていたかい?」

「いや、特には...」


 そこで思い出すのは、ハーメルンの死に顔だった。


「...少し救われたような顔をしていた、と思う」

「そうか...救われたのか」

「怒らないの?」

「なに、礼を言いたいぐらいだよ」


 礼か。仲間を殺されたのに何でそのような感情を抱くのだろうか?私には分からない。


「世間話もここまでにして、そろそろ終わらせようか」


 ジェスターは、魔法を斬り裂くスラッシャー・マロールムを懐から取り出し、そのままこちらに駆けて来た。

 あのナイフは、簡単には防げない。あれは、魔法を斬るナイフである。

 だが、問題はそれだけではない。この世界の対策を考えなければならない。

 だが、その点に関しては当てがある。この小さい世界の領域をうまく活用するほかない。

 今はとりあえず、このナイフをどうするかを考えるのが優先であった。これをどうにかしなければ、死んでしまうのはアリスだ。

 アリスの選んだのは、時を止めて侵略を進めることであった。


「〈気違いの茶会〉」


 ジェスターの時が一瞬止まる。その間にアリスは、全神経を領域につぎ込んで侵食を開始する。

 ジェスターの時が止まったゆえに、ジェスターの世界の防衛は難しくなっていた。だから、簡単に乗っ取ることができた。

 この世界は陽気な道化のテントではなく、不思議で幻想的な森の中へと変化した。

 その森は、色鮮やかな木々が並び、現実にはいないような動物が顔をのぞかせていた。

 世界が変化してすぐに、ジェスターは目覚めた。


「ハハハ、してやられたか」


 ジェスターは辺り一面を見回しながら、面白いものを見たかのように笑いながら言い放つ。


「これはまた幻想的な世界だな」

「いいでしょう?この世界。この美しい面に反して、畏怖なる面も有しているのだけれどもね」

「それにしても、この世界にするときに使った術は〈世界〉が言っていたものなのだろうな」


 〈世界〉、アリスの兄がアリスのことを何か言っていたのだろう。


(何を言ったのかは気になるなぁ)


 そう考えつつも、この戦いで兄の事を聞くよりも、ジェスターを倒すことが最優先であった。情報は、捕まえて吐かせればいい。


「あぁ、でも惜しいな。君の世界は不完全だ!!不完全故に、いとも簡単に壊せるのだよ」


 そう言いながら、懐からスラッシャー・マロールムを取り出してこの世界を切り裂く。


「魔法を断つ力または圧倒的な力、世界での相殺、世界に干渉する力。それらの人知を超えた力、それが世界を破壊する方法だ」


 そう言って、スラッシャー・マロールムを大きく振りかざした。刹那、世界がガラスのように砕け散って、アリスとジェスターは暗い闇へと吸い込まれた。


「ハハハハハハ、これで俺の勝ちだ!!」


 ジェスターの勝ち誇った声が高々と聞こえてきた。それに、アリスもボソリと返した。


「いや、勝ったのは私だよ...」


 未来の現世での出来事が何故かわかってしまった。

 禍々しくも美しい羽を持つ、ルーク。

 太陽のように燃える瞳を宿した、フラマ。

 そして、黄金に輝く指輪をはめたルクス。 

 この三人が、アリスとジェスターを囲っていた。

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