第28話 魔王城への道と裏切りの影

 ――

 魔王城への出発


 バロルとの激闘を終え、俺たちは王都に戻った。街は勝利の報せに沸き立っていたが、俺の胸には奇妙な不安が渦巻いていた。


「お兄さん、ついに魔王のお城に行くんだね!」


 ルナちゃんは目を輝かせている。だがその横でロイドさんは険しい表情を崩さなかった。


「勇者様、ひとつ気がかりなことがあります。魔王軍の幹部がこれまで容易に姿を現さなかったことです。奴らが本気で攻めてくるなら、もっと手強いはず……」


 俺は頷きながらも、鍋の取っ手を強く握った。


「……そうだな。バロルでさえあの強さだ。魔王本人や幹部連中は、もっと化け物みたいな力を持ってるに違いない」


 だが退く気はなかった。これまでスープの力で数々の危機を乗り越えてきた。今さら怖じ気づくわけにはいかない。


 王様も玉座から立ち上がり、俺たちに向かって言った。

「勇者よ、王国の運命はそなたに託された。魔王を討ち、我らに真の平和をもたらしてくれ」


 ルナちゃんが元気よく答える。

「任せてください! お兄さんのスープがあれば、きっと魔王だって倒せます!」


 ……まぁ、ちょっとプレッシャーだけどな。


 ――

 裏切りの影


 魔王城への道中、俺たちは険しい山岳地帯を越え、暗い森を抜けていった。ところが、森の中で妙な気配を感じたのは、俺だけではなかった。


「お兄さん……誰かに見られてる」


 ルナちゃんが杖を構え、ロイドさんも剣を抜く。


 次の瞬間、闇の中から数人の兵士が現れた。だが、その鎧には見慣れた紋章が刻まれていた。


「まさか……王国軍?」


 ロイドさんが目を見開く。


 兵士の一人が冷たい声で告げた。

「勇者殿、ここから先へは行かせぬ。王国の命令だ」


「王国の命令? どういうことだ!?」


 俺の叫びに、兵士は淡々と答える。

「魔王を討つ必要はない。むしろ、魔王と手を組んだ方が得策だと、陛下の側近は判断された」


「ふざけるな! 魔王と手を組むだと!?」


 ルナちゃんが怒りで震え、ロイドさんは剣を構えた。


「勇者様、これは反乱です。王国の中に魔王と通じている者がいる……!」


 兵士たちは一斉に武器を構え、俺たちを取り囲んだ。


 ――

 スープで突破


「お兄さん、どうするの!?」


「決まってる。こいつらまとめて強化して……じゃなくて、ぶっ倒す!」


 俺は鍋を取り出し、スキル《料理》を発動。瞬く間に完成したスープをルナちゃんとロイドさんに振る舞った。


 ルナちゃんの魔力が一気に高まり、ロイドさんの剣は光を帯びる。


「行けえええええ!」


 ルナちゃんが雷撃魔法を放ち、ロイドさんが電光石火の剣技で兵士たちを次々に無力化していく。


「す、すげえ……まるで別人のようだ!」


 裏切りの兵士たちは次々に倒れ、やがて撤退していった。だが、奴らの言葉は胸に重くのしかかる。


「王国の中に……魔王と手を組む者がいる?」


 この事実は、これまでの戦いとは別の意味で厄介だ。


 ――

 魔王城が見える


 数日後、ついに魔王城が視界に現れた。黒い霧に包まれたその城は、見るだけで心が凍りつくような不気味さを放っていた。


 ルナちゃんが息を呑む。

「お兄さん……あれが、魔王のお城……」


 ロイドさんも剣を握りしめた。

「間違いありません。魔王軍の本拠地です」


 俺は鍋を強く抱え、心に誓った。


「裏切り者も、魔王も……全部ひっくり返してやる。俺のスープでな」


 城の上空には、巨大な魔物が無数に飛び交い、地上では魔王軍の兵士たちが整列していた。


 決戦の時は、もう目の前まで迫っている。

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