第3話 魔法少女、スープに釣られる

「おい勇者様、あれを見ろ!」


 俺が作ったトマトスープで傷を癒した騎士が、突然森の奥を指さした。


 視線の先には――光る魔法陣の上で、派手な格好の女の子が寝ていた。


「……誰?」


「おそらく、召喚魔法の失敗でしょうな。あの魔法陣、王都の魔術学院の紋章に似ています」


 どうやら魔術学院が呼び出そうとしたのは、勇者か何かのはずが、なぜか女の子がここに来ちゃったらしい。


 いや、異世界召喚の事故率高すぎない?


 ⸻


 俺たちは彼女を起こすことにした。


「すみません、大丈夫ですか?」


「……んん? ここは……」


 目を開けた彼女は、ぱちぱちとまつげを瞬かせて状況を確認し、そして立ち上がるといきなり名乗った。


「わたしは魔法少女ルナ! 闇の軍勢を倒す使命を帯びて、今こそ――」


 ぐぅぅぅぅぅぅ。


 彼女のお腹が、盛大に鳴った。


「……」

「……」


 沈黙。


「とりあえず、スープ飲みます?」


「飲む!!!」


 ⸻


 俺の《料理》スキルで作ったスープを一口飲んだ瞬間、彼女の瞳が星のように輝いた。


「な、なにこれ……! 魔力が体の奥からあふれてくる!?」


 彼女は杖を構え、試しに火球を撃ってみた。


 ――ズドォォォン!!!


 さっきまでボロボロだった彼女の魔法が、ドラゴンを一撃で吹き飛ばすほどの威力に変わっていた。


「お、お兄さん、このスープすごい! わたし、あなたについていく!」


 こうして、最初の仲間――魔法少女ルナがパーティに加わった。


 ⸻


 だが、このスープの力が王都や魔王軍に知れ渡るのは、もう少し先の話である――。

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