第3話 総て熱砂となる


 『識別番号ナンバー241番。

相楽涼は、国家公認の賞金稼ぎバウンティハンターである。


同じくハンターである名倉楓馬なぐらふうま(103番)を相棒バディとしている。

 主な功績は、63年の連続殺人犯の、64年の放火犯の身柄確保、65年の殺人犯の身柄確保。

 最終学歴は火幻高等教育機関。

身長177cm、体重64.5kg。

短気で衝動的。

協調性がなく、集団作戦には適さない。

統率の際は注意を払うこと。』



統括安全庁統安の制服を着た体格の良い男は、パット状の機器を流れる文字列から目を上げて、机を隔てて立つ二人の青年を見てため息をついた。


「お前ら、本当にいい加減にしろ」


男の呆れ声を受けて、細身の青年⋯相楽涼は、わざとらしく眉を顰めて両手を頭の後ろで組んだ。

 その隣に立つ、背の低いレスラー体型の青年⋯名倉楓馬もまた、下手な口笛を吹きながら窓の外を眺めている。


全くもって反省の色が見られない。


識別番号ナンバーは103番。

名倉楓馬は、国家公認の賞金稼ぎバウンティハンターである。


同じくハンターである相楽涼さがらりょう(241番)を相棒バディとしている。

 主な功績は、60年の集団窃盗グループとの交戦参加、61年の殺人犯の身柄確保、同年の強盗犯の身柄確保、63年の放火犯の身柄確保、65年の殺人犯の身柄確保。

  960年に功績を称え、最優秀ハンター賞を授与。


最終学歴は火幻中等教育機関。

身長164cm、体重82.5kg。

負けん気が強く調子に乗りやすい。

大規模な集団作戦に二度参加経験があり、どんな状況でも対応できる適応力があるが、自己中心的であり攻撃的。

統率の際は注意を払うこと。』



「お前らの仕事は犯人の身柄確保だ、私刑を行うことではない。」


忌々しげに睨む男の眼光をよそに、青年二人は目を合わせようともしない。⋯どこ吹く風である。


「多少手荒な真似は仕方ないとは言え⋯⋯、お前らに蹴られた犯人は全治4ヶ月だぞ。

はぁ⋯もういい、これも何度言ったか。」


男はパットに視線を戻し、二人の名を呼んだ。


 「相楽涼、名倉楓馬⋯お前達二人に謹慎処分を下す。いいな。」



[上記の人物に対して、命令違反の罪で謹慎処分を下す。管理官のパスキーを承認。]


[241番は、半年以内に二度目の謹慎処分であるため、謹慎ではなく懲罰室での三日間の勾留とする。]


[103番は、半年以内に二度目の謹慎処分であるため、謹慎ではなく懲罰室での三日間の勾留とする。]


[以上、二名に三日間の謹慎処分を下す。処理を行った管理官は笹山一生。]




 「相楽涼、名倉楓馬、名前と番号が呼ばれた順に懲罰部屋へ入れ」


「へい」


「へーい」






▽▽▽▽



白い⋯白い部屋だ。


 ここに来るのはこれで二度目だ。

もう二度と来るまいと思ったが⋯。

今後は名倉との付き合い方を考えたほうがいいのだろうか?


部屋の座椅子にもたれ、相楽涼はそんなことをボーっと考えた。


 白い壁に四方を囲まれたこの部屋は、座椅子と低いテーブルと空調のみをインテリアとした、至ってシンプルな作りをしている。

 あまり長時間いると気が狂いそうだ。


 前回ここにぶち込まれたのは何故だったか⋯。


…連続殺人鬼を射殺してしまった時か。

あれは俺のハンター人生でも大きな事件だったから記憶に残っている。

今回は三日だが、あの時はもっと長く入れられた。


そもそも俺がハンターになった理由は、両親が強盗殺人で殺されて、天涯孤独になったからだ。


全てを失って放り出された俺は、多少の遺産を受け取り、働ける年齢になってからは国からの保護を切って、生活費の安い火幻へとやってきた。

統安に勤める刑事の一人にお世話になった。


成人するまでは、その刑事の紹介してくれたバイトをしながら、国営の寮の薄暗い部屋でハンターになる勉強をしていた。

本当は刑事になりたかったのだが、難しそうなのでやめた。


 ハンターになるのはそれほど難しくない。

危険兵器の一種であるケレブラムの使用資格と法律関連、その他幾つかの資格を取れば誰でもなれる。

一応、公認ハンターは国家の治安維持機関である統括安全庁に勤める公務員に位置付けられる。

 ハンターの中でも、統安に所属できるのは一握りであり、多くは民間の警備組織やセキュリティ会社に流れていく。


 統安に入るために法律やケレブラムを扱う資格を取った俺は、前述した刑事のコネも使って、運良くできた空きに滑り込む形で公認ハンターになった訳だ。



 …過去の追憶に浸っていると、壁がノックされた。


「おぅい、相楽、聞こえるかー?」


壁越しにくぐもった名倉の声が響いた。

どうやら隣の部屋に入れられていたらしい。


 「おう、聞こえるぞ」


「こっから三日暇だぞ、これ⋯。

なぁ、最近火幻で流行ってる噂話、知ってるか?」


薄い壁越しに、名倉がゴソゴソ動いた。

どうやら寝っ転がったらしい。


「⋯」


 「なんでも、宇宙生物が人間のふりして紛れ込んでるんだとよ。」


 壁の前に座椅子を持ってきて、相楽涼は返事をした。


 「千年前の超巨大隕石に乗ってやってきた宇宙生物が人間に寄生してるっていうやつだろ?随分前からある都市伝説だぞ、それ」


涼の呟きに、壁の向こうの名倉がしかめっ面をした。

 

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這いずって、新世界。 イソラズ @Sanddiver

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