第28話「夏休み前のすれ違い」

1. □ 夏休み直前の教室は浮き足立っていた。「合宿どうする?」「打ち上げもやりたいな」そんな声が飛び交う。僕は机に座りながら、指先を震わせてタブレットを握っていた。

2. □ 行事が決まるたび、みんなの笑い声が大きくなる。僕も参加したいのに、声も足も自由にならない。胸がざわつき、息が浅くなった。

3. □ 明日香が「蓮も一緒に考えよう」と声をかける。けれど周りの空気に押され、僕は《だいじょうぶ》とだけ打った。本当は「混ざりたい」と叫びたかったのに。

4. □ クラスの男子が「無理させなくてもいいんじゃね?」と呟いた。悪意はないのかもしれない。でも、その一言が刃のように胸を裂いた。

5. □ 明日香がすぐに「蓮はできるよ」と反論してくれた。けれど「守られてる」という自覚が、余計に僕を苦しめた。

6. □ タブレットに《ごめん》と打つ。明日香は「ごめんじゃなくて一緒に楽しもうでしょ」と笑った。涙が滲んだ。

7. □ 放課後、飾り作りの作業が始まる。僕は折り紙を折ろうとしたけれど、指がもつれて紙はぐしゃぐしゃになった。

8. □ 隣の女子が「これ私がやるから大丈夫」と紙を受け取った。優しさなのに、胸に重くのしかかり「役立たず」という声が頭に響いた。

9. □ 明日香が「蓮は色を選んでよ」と笑顔で役割を渡してくれる。僕は必死に色紙を選び、《あか》と打った。

10. □ 誤字で《あかぁ》になった。クラスの誰かが笑った。「面白い字だな」その笑い声に涙がこみ上げた。

11. □ 明日香が「かわいいじゃん」と笑ってフォローした。胸が少し軽くなったけど、自己嫌悪は消えなかった。

12. □ 夕暮れ、作業が終わった教室で明日香と二人きりになった。「蓮、今日はどうだった?」と聞かれる。

13. □ タブレットに《たのしかった》と打つ。でも心の奥では「苦しかった」と叫んでいた。

14. □ 明日香が「……本当は?」と覗き込む。僕は視線を逸らし、ただ画面を消した。涙が溢れそうで隠した。

15. □ 「蓮、無理しなくていいんだよ」と彼女が言う。その言葉が優しくて、同時に重かった。

16. □ タブレットに《むりしてない》と打つ。けれど誤字で《むりしてなぃ》になった。彼女は「可愛い」と笑った。涙が頬を伝った。

17. □ 帰り道、街灯が一つずつ灯る。明日香が「一緒に帰ろう」と歩調を合わせる。僕は俯き、タブレットに《ありがとぅ》と打った。

18. □ 「うん、ちゃんと届いたよ」彼女は微笑む。涙で画面が滲んで、文字が揺れて見えた。

19. □ 家に着くと母が「疲れたでしょ」と声をかける。僕は《ふつう》と打った。心の奥では「全然普通じゃない」と泣き叫んでいた。

20. □ 夜、布団の中で《ぼくはいらないのかな》と打ち込んで消した。画面に残ったのは《ありがとう》。それだけが唯一の救いだった。

21. □ 翌朝の通学路、セミの声が喧しく響いていた。周りの生徒は「夏休みどうする?」と楽しそうに語っている。僕は一歩遅れて歩き、足元のアスファルトを見つめていた。

22. □ 明日香が振り返り「蓮も楽しみ?」と声をかける。タブレットに《たのしみ》と打つ。でも誤字で《たのしぃ》になった。彼女は「かわいい」と笑った。

23. □ その笑顔が嬉しいはずなのに、「また誤字だ」という自己嫌悪が胸を締め付けた。涙が込み上げるのを必死に堪えた。

24. □ 教室に入ると黒板に「夏祭り実行委員募集!」と書かれていた。教室がざわつき、「やろうぜ!」と声が飛ぶ。僕は胸がざわついた。

25. □ やりたい。けどできない。声も出せないし、手も震える。頭の中で「無理だ」という言葉が繰り返された。

26. □ 明日香が「蓮も一緒にやろうよ」と手を挙げた。周囲が一瞬静まり、視線が集まった。僕は俯いた。

27. □ タブレットに《むり》と打とうとして《む》で止まった。明日香が覗き込み「大丈夫、私が一緒だから」と微笑んだ。

28. □ その声に救われつつも「また守られている」と感じて、胸が痛んだ。涙が滲んで視界が揺れた。

29. □ 放課後、実行委員会の初会議が始まった。僕は端に座り、タブレットを握りしめていた。

30. □ 周りは次々と意見を出す。僕は文字を打つのに必死で、画面には誤字ばかり。焦るほど指が震え、心臓が速く打った。

31. □ 「えっと…水城は?」と先生に聞かれた。喉が詰まり、声は漏れなかった。タブレットに必死で打つが、文字が乱れた。

32. □ 《やりたいけど》が《やりたいけゎど》になった。クラスの笑いが起きた。冗談だったのかもしれない。でも胸が裂けた。

33. □ 明日香が「ちゃんと伝わってるよ」と声を上げた。その必死さに涙が溢れ、画面が揺れた。

34. □ 帰り道、蝉の声がやけに大きく感じた。僕はタブレットに《ごめん》と打った。

35. □ 「謝らないで」明日香の声は揺らがなかった。「一緒にやってるんだから」その言葉に涙が止まらなかった。

36. □ 家に帰ると母が「委員になったの?」と聞いた。僕は《うん》とだけ打った。本当は胸が苦しかった。

37. □ 夜、布団の中で《ぼくはいらない》と打って消した。残したのは《がんばる》。震える文字に涙が落ちた。

38. □ 翌日、委員会の準備で買い出しに行くことになった。みんなが歩く中、僕は一歩遅れてついていった。

39. □ 足がもつれ、転びそうになった。周りの笑い声が耳に突き刺さる。涙が込み上げた。

40. □ 明日香が腕を支え「大丈夫?」と囁いた。その声が救いになり、同時に重く感じた。

41. □ 店で小物を選ぶ作業が始まった。僕は震える手で筆を取ろうとしたが、落としてしまった。

42. □ 「危ない!」と誰かが拾ってくれた。感謝よりも「またできなかった」という自己嫌悪で胸が潰れそうだった。

43. □ 明日香が「色選びは蓮のセンスに任せるね」と笑った。僕は必死で《あお》と打った。誤字で《ぁお》になった。

44. □ 「可愛い字だね」と彼女が笑う。胸が温かくなるのに、涙がこぼれた。

45. □ 帰り道、祭りの提灯が試験点灯されていた。オレンジ色の光が街を染め、心に影を落とした。

46. □ タブレットに《きれい》と打つ。誤字なく打てた。それだけで涙が滲んだ。

47. □ 明日香が「そうだね、すごくきれい」と微笑む。その声に救われた。

48. □ 家に帰ると母が「大丈夫?」と聞いた。僕は《ふつう》とだけ打った。本当は全然普通じゃなかった。

49. □ 夜、机に《ぼくはここにいる》と打ち込んだ。涙で文字が揺れて見えた。

50. □ 翌朝、蝉の声がうるさいほど鳴いていた。僕はタブレットを握りしめて学校へ向かった。

51. □ 教室に入ると「祭りの準備進めよう!」と声が上がる。僕は胸がざわついた。

52. □ 飾り付けの作業で、また紙を落とした。笑い声が聞こえた。胸が潰れそうになった。

53. □ 明日香が「蓮は色のセンス抜群だから」とフォローした。その言葉が温かく、同時に苦しかった。

54. □ タブレットに《ありがとぅ》と打った。誤字がまた涙を誘った。

55. □ 放課後、祭りのポスターを作ることになった。僕は筆を握ろうとしたが、手が震えた。

56. □ 紙に滲んだ文字を見て、涙が溢れた。できない現実が突き刺さった。

57. □ 明日香が「その滲みも、味だよ」と笑った。胸が熱くなり、涙が止まらなかった。

58. □ 帰り道、夏の風が頬を撫でた。蝉の声が遠くで響いていた。

59. □ タブレットに《つかれた》と打つ。誤字なく打てた。それだけで涙が滲んだ。

60. □ 明日香が「よく頑張ったね」と笑った。その声が胸を包んだ。

61. □ 家に帰ると母が「今日はどうだった?」と聞いた。僕は《がんばった》と打った。母の目が潤んだ。

62. □ 夜、布団の中で《ぼくはここにいる》ともう一度打った。昨日よりも力強く見えた。

63. □ 翌日、教室で「祭りの進行役は?」という話が出た。僕は息を詰めた。

64. □ 明日香が「私がやるから、蓮は隣で支えて」と言った。クラスが「いいね」と頷いた。

65. □ 胸が熱くなった。守られているだけじゃない、一緒にいるんだ。涙がこぼれた。

66. □ タブレットに《ありがとう》と打つ。誤字なく打てた。

67. □ 放課後、二人で会場の下見に行った。提灯が風に揺れていた。

68. □ 「蓮、ここに立ってるだけで十分だよ」と明日香が言った。その言葉に涙が滲んだ。

69. □ タブレットに《ほんとに?》と打つ。彼女は「ほんと」と頷いた。

70. □ 夕焼けが二人を包んだ。影は並んで伸びていた。

71. □ 帰り道、タブレットに《すれちがっても》と打つ。彼女は「大丈夫、また並べばいいんだよ」と笑った。

72. □ その笑顔に胸が震え、涙が頬を伝った。

73. □ 家に帰ると父が「頑張ってるな」と言った。僕は《うん》と打った。涙がこぼれた。

74. □ 夜、机に《ぼくはここにいる》と打った。その文字が光った。

75. □ 翌日、教室で「いよいよ本番だな」と声が上がった。僕の胸は高鳴った。

76. □ 明日香が「一緒にやろう」と微笑んだ。その声に救われた。

77. □ タブレットに《はい》と打つ。誤字なく打てた。それだけで胸が熱くなった。

78. □ 放課後、準備で紙灯籠を並べた。僕は震える手で必死に支えた。

79. □ 倒れそうになった灯籠を明日香が支えた。「大丈夫?」その声に涙が滲んだ。

80. □ タブレットに《ごめん》と打つ。彼女は「一緒なら大丈夫」と笑った。

81. □ 夜の街に提灯が灯った。赤や橙の光が揺れて、胸を照らした。

82. □ タブレットに《きれい》と打つ。彼女は「うん、すごく」と笑った。

83. □ 涙が止まらなかった。きれいな光の中で、心が揺れた。

84. □ 帰り道、風が頬を撫でた。明日香が「蓮、ありがとう」と言った。

85. □ タブレットに《こちらこそ》と打つ。誤字なく打てた。涙が滲んだ。

86. □ 家に帰ると母が「楽しかった?」と聞く。僕は《たのしかった》と打った。

87. □ 夜、布団の中で涙を流した。楽しかった。でも苦しかった。でも、確かにここにいた。

88. □ 翌朝、セミの声が鳴き止まなかった。僕はタブレットを強く握った。

89. □ 教室で「今日はリハーサルだ」と声が上がる。胸が高鳴った。

90. □ 明日香が「隣で支えてね」と囁いた。その声に救われた。

91. □ タブレットに《まかせて》と打つ。誤字なく打てた。胸が震えた。

92. □ リハーサルが始まる。僕は人前に立ち、手が震えた。

93. □ 明日香が横で笑ってくれた。涙が止まらなかった。

94. □ 「大丈夫だよ」と彼女が囁く。その声で立っていられた。

95. □ タブレットに《ありがとう》と打った。誤字なく届いた。

96. □ 拍手が起こった。胸が熱くなった。

97. □ 涙がこぼれた。嬉しくて、苦しくて、全部混ざっていた。

98. □ 明日香が「蓮、最高だったよ」と囁いた。その声に救われた。

99. □ 家に帰り、机に《ぼくはここにいる》と打った。光が強く見えた。

100. □ 未完成でも、すれ違っても。僕の恋はここにある。明日香と並んで歩くその道は、まだ続いていた。

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