第七章:仲間の警告

金曜の夜、久しぶりに学生時代の友人、健太と飲むことになった。

居酒屋で酒を前にしても、俺の頭の中は落ち着かない。

ふとした瞬間、誰かに見られている感覚が蘇る。


「最近、どう?」

健太は笑いながら聞いた。

「……ああ、まあ」

俺は適当に答える。

でも、正直に話せる気はしなかった。

隣人のこと、監視されていること、写真や封筒……誰にも信じてもらえない気がしたのだ。


健太は席を立ち、厨房の方を見やった後で戻ってきた。

「お前さ、最近ちょっと変じゃないか?」

「変って……何が?」

「歩き方とか、電車の中とか。前より明らかに緊張してる」


その言葉に、俺はぎくりとした。

確かに、通勤中も仕事中も、常に誰かの視線を意識している。

ただの思い過ごしかもしれないが、恐怖は確実に俺の生活を支配していた。


「もしかして……隣人のこと、関係あるんじゃないのか?」

健太は俺の目をじっと見つめる。

その瞬間、俺は口をつぐむ。

これ以上話すと、現実味を帯びすぎて恐怖が膨れ上がる。


帰宅後、郵便受けには封筒が入っていた。

中には、健太と居酒屋で話している写真があった。

目の前の光景が、そのまま切り取られている。

「……なんだよ、これ……」

震える手で封筒を握る。

監視者は、外出先、仕事先、友人との時間まで追跡している。

俺の生活に、逃げ場はない。


夜、ベッドに潜り込み、窓の外の街灯に映る影を見つめる。

布団の中でも心は落ち着かず、耳を澄ませば隣室の紙を折る音や微かな足音。

誰かが生活の隅々まで監視している。

俺は孤立し、信じられるのは自分の感覚だけだ。


「俺は……本当に逃げられないのか」

小さく呟き、手を握りしめる。

監視者の影は静かに、しかし確実に、俺の生活を支配している。

その恐怖は、もはや日常の一部となりつつあった。

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