27、罪の在処

 2XXX年◯◯月△△日。

 甲県乙市で発生した殺人事件について最高裁は□□日、「殺人の動機は自然の見えない諸力が作用した結果であり、被告人に罪はない」とし、被告人側の主張を認める判決を下した。これにより被告人側の無罪が確定し、検察側の主張は退けられる事となった。この判決を受けて被告人弁護士の某氏は――。






「馬鹿馬鹿しい。世も末だな」

 男は新聞から顔を上げると、そんな愚痴を溢した。

 大通り沿いのテラス席は日に照らされ、男の机の上には湯気を上らすコーヒーと齧られたサンドイッチが並ぶ。

 すると。

「僕もそう思います」

 と、男の背後から声が聞こえてきた。

 振り返ると、そこには見知らぬ青年が笑みを浮かべて立っていた。

「おぉ、君もそう思うか」

「えぇ。だって、犯罪の原因が自然の力の所為せいになるってことは、どんな罪を犯しても責任が問われないんですから」

 この時、青年が後ろ手に持った刃物の柄を握り締めたことを、男は知らなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る