10、廃工場

 ある夜。俺はひとり山中の廃工場を訪れていた。

 理由は肝試しのためだ。

 俺は左手の懐中電灯を点けると、立ち入り禁止のバリケードを跨ぎ、敷地内へ侵入する。

 そして、入り口のドアノブに手をつけた。

 ギー、という軋んだ音とともに扉を押し開けると、目の前には幅の広い廊下が、暗闇に吸い込まれるように続いていた。

 右手には受付だろうか、古びたカウンターと、青々とした観葉植物が置かれている。

 変な雰囲気だなと思いつつも、俺は足元を照らしながら一歩ずつ進んで行った。


 だが、いくら進んでも怪奇現象は起きなかった。

 俺の足音が響くのみで、あとは全て無音なのだ。

 やがて暗闇から浮かんできたのは一つの扉。

 工場の構造上、この先は恐らく出口だろう。

「……期待はずれだったな」

 俺はため息を吐き、その扉を押し開ける。

 だがその瞬間、目の前に広がったのは外の景色ではなかった。

 視界の右側――そこに古びたカウンターと、青々とした観葉植物があったのだ。

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