6、欲望

「私を呼び出したのは貴様か」

 地面に描かれた魔法陣から現れたのは、一匹の悪魔。暗がりに浮かぶ黒い羽根と触角を生やした姿は、まさにイメージ通りだ。

 そんな悪魔に俺は答える。

「あぁそうだ。お前の力を借りたくてな」

「ほう。ならば貴様の願いとはなんだ? 教えてみろ」

 ――きた。

 かねてから答えようと考えていたこの質問。

 待ち侘びたこの瞬間に、俺は一呼吸を置き、その言葉を紡いだ。

「温かい飯を腹いっぱい食わせてくれ」

「……は?」

「いやだから、温かい飯を腹いっぱい食わせてくれって」

「……理由は」

「もう何ヶ月も公園の水と何かの残飯しか食ってないから」

「……因みに代償は」

「俺の命で。最期にこの願いさえ叶えば十分だから」

「……」

 何故か黙り込む悪魔。

 暫しの沈黙の後、悪魔は言った。

「……分かった」

 瞬間、ベンチの上に大量の料理が並ぶ。

「やった! ありがとう!」

 俺は合掌した後、無我夢中で食らいついた。

 傍で啜り泣く声も聞こえない程に。

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