2、わたしは私

 目を覚ますと、そこは異世界だった。

 辺りを見渡せば、目に映るのは全て白。

 音も、臭いも、何もない。

 唯一あるとするならば、淡い光を放って宙に浮かぶ謎の球体のみ。

 私は球体に近づき、そっと手を伸ばしてみる。

 しかし、触れることはできない。

 目の前にあるはずなのに、触れることができない。

 ――おかしい。

 もう一度、手を伸ばしてみる。

 だが、やはり触れられない。

 見えない何かに阻まれているのではない。

 球体の周りだけ空間が歪んでいるのだ。

 だから、いくら手を伸ばしても届かないのだ。

 原因が分からない以上どうすることもできない。

 私はその球体を諦め、その場を離れた。






 わたしはだった。

 の自己であり、精神であった。

 けれど、目の前にいたは、わたしなくしても動いていた。

 ――おかしい。

 そう思ったわたしは、に触られるのを拒んだ。

『ねぇ、今のは誰なの?』

 音のない言葉が静寂に消えていく。

 わたしはただ、消えゆくの背中を見つめていた。

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