第二話 追憶②

(賑やかな飯屋内にて)


 ほら、久しぶりのまともな食事だ。


 今のうちにたんと食べておくとといい。


 遠慮はするな。


 今のうちに食いだめていなければ明日からの山籠もり、


 三日とたたず飢えて死ぬぞ?



 ……良い食べっぷりだ。ほら、私の分も食え。


 ああ、私は生来より食が細くてな。胃袋が小さいんだよ。


 今になっては、若い頃からしっかりと食べておけばよかったと後悔しているよ。


 おかげでこんなちんちくりんのまま老け込んでしまった。



 ん? まだ若いよ、だって? はっ、マセガキめ。


 一丁前に口説き文句か? おお?


 私はもう…………、


 ……えっと、何歳だ?


 ……あの時が九……、うん、九歳だった気がする。


 それから一、二、三…………八? 十?


 …………なぁ、少年、私は何歳に見える?



 ん……、そうか。


 まあ、お前の言う通り二十前後なのだろうな。


 だからなんだという訳でもないが、こうして数字にすると妙な気分だ。


 ……もう、立派な生き遅れだ。



 ん? 私の呼び方? 


 ああ……、そういえばまだ名前も教えて無かったな。


 お前の好きに呼べ。


 おまえでも、女でも……


 ……次、お姫様なんて口走ったらその顎を砕き割るからな?


 師範もダメだ。お前は弟子だが、私は師範ではない。



 ……う、そうだな、好きに呼べといったのは私だな。


 だがお姫様はないだろう、それと師範もやっぱり駄目だ。



 ……名前か、別に教えたくないわけでは……、いや嘘だ、やっぱり教えたくない。


 何でって? ……、私には似合わないからだ。


 ……ほら、あそこの如何にも子悪党といったおもの男が、アーサーなんて呼ばれていたら笑いものだろう?


 私なら笑う。


 性格が悪いか? 残念だったな、お前を拾った女はこういう生き物だ。



 ……教えないと言ったら、教えない。


 私の事は『姉さん』とでも呼べ。


 ああ、お前は私の弟子なんだからな。



 私に弟がいたことは無いが、まあそれなりに可愛がってやるさ。



 ◇◇◇



(水の滴る音、小鳥のさえずりも共に聞こえる)

(森の中の小さな泉にて)


 ……おい、何か、弁明があるなら聞くぞ。


 このクソマセガキ。



 私はお前に何て言った? 


 私が水浴びしてる間に、武具の手入れをしていろと言ったんだ。


 なんだ? もうそれは終わったのか?


 ……え? 終わってる? 嘘をつく……


 ……ぁ、あぁ……終わってるな、これは……。


 すごく、……綺麗になってる。


 ……良いことだ。



 だが! だからと言って私の水浴びを覗きに来るやつがあるか!


 ……すごく綺麗になってたから見てほしくて? 


 阿保みたいな言い訳するな!


 お前はその鏡の様にきれいになった剣身越しに、私の体を視姦していだだけだろう!


 このマセガキが!


(思いきり叩く音)


 ふん、このマセガキめ!


 いいか! お前は今日から”マセガキ”だ!


 そうとしか呼ばんからな!



 はぁ……、私の胸なんてみて何が楽しいんだか……、まったく。


 お尻も見てます?!


 …………ははっ、はっ、そうかマセガキ。


 お前はそんなに私に殴られたいか……。


 いいだろう、明日の訓練は覚悟しておけよ……。



 ……ほら、着替えるからどっか行け。


 しっ、しっ!



 ────────────────────

 マセガキ呼び(マセガキが全面的に悪い)。

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