『最後の自販機』

ずんだ。

序章 都市伝説としての噂1

――関東地方某県、地方新聞の記事より(2028年8月5日付)


「誰も補充しないのに、空にならない自販機」

そんな不可解な存在があると、読者から投書が寄せられた。


設置場所は市街地から少し外れた住宅地の角。

錆びついた赤い筐体は、周囲の風景に溶け込み、地元住民ですら「まだ動いていること」に驚きを隠さない。


「もう20年くらい経ってるんじゃないかしら。ずっと同じ場所にあるんです」

そう語るのは近隣に住む70代の女性だ。


通常の自販機なら、補充員が定期的に商品を入れ替えるはずである。

しかし住民たちは誰ひとりとして「補充しているところを見たことがない」という。

にもかかわらず、飲み物は常に冷えていて、金額も古いまま100円。


「子どものころに飲んだ懐かしい味が出てきたんです」

「入れたお金が戻ってきたのに、缶も出てきた」

「買った覚えがないのに、朝起きたら家の冷蔵庫に入っていた」


噂は噂を呼び、やがて若者たちの間で動画配信のネタとして取り上げられるようになった。

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