第12話 出会いの時

「さーて、片付いたことだし飯食いに行くか」

「四天王って言う割には呆気なかったね。やっぱりあの残党が言ってた通りだ。」


 とある双子は四天王と呼ばれる強ーい魔族を倒し雑談を交わしていた。

 クレアと呼ばれていた魔族。彼は自分たちを弱いと言っていた。それは間違いではなかった。例外を除いては。


「流石は人。慢心が過ぎるな」


 背後から声。双子が振り返った時にはもう遅い。光の線が一直線に伸びていきマレインの肩を貫いた。


「―っあぁ…ぁ!」

「マレイン…!」

「いやはや人というのは悲しい生き物だ。」


 かすり傷一つないレヴィアタンは語る。


「この程度で我が死ぬわけがないであろう。」


 次に放たれた攻撃は動けなくなったマレインめがけて飛んでいった。

 光が収束し1本の槍になる。それが放たれ一瞬でマレインの目の前にまで到達していた。

 動けないマレインには死は確実。たとえ動けても致命傷だろう。

 だが不思議なことにマレインにさらなる痛みが走ることも意識がなくなることもなかった。


 ――血が散乱していた。


 その時マレインは理解する。フマルが己を助けてくれたのだと。そしてその行動によってフマルの左手が失われたということを。


「あぁ…ぅう……!」


 必死にない腕を抑えようとする。切断面からは血がとめどなくあふれてくる。これでは出血死してしまう。そう考えたマレインは必死に回復魔法ヒールを唱えた。


「――っ!」


 切断された部分に皮が生成されていく。

 フマルが声にならない声を上げ痛みに苦しむ。

 だがその声は次第に小さくなっていった。


「あ、ありがとう、マレイン。」

「兄として当然のことだ。…いや兄が助けられてどうする。」


 己を鼓舞し、立ち上がる。

 今の自分では敵わないとわかっている相手に視線を向ける。

 相手、レヴィアタンはただ無慈悲にその光景を眺めていた。

 なぜこいつは今襲ってこないのだろう。そんな事を彼は考えたが相手の思考など分かるはずもないためすぐさまその思考を放棄する。


「…【ヒール】」


 自分自身の肩に向けてそう唱えた。

 発動しなかった。


「は?魔力切れ?どういうことだ…?」


 双子は特訓のさなか魔力量をあげる特訓もこなしていた。そのためこの程度で魔力切れを起こすなど普通ありえなかった。

 ただそれはこの場が普通でないだけなのだが。


「…そもそもとしておかしいとは思ってたんだ。」


 マレインが思考を巡らす。

 この不思議な現象を。


「こんだげ俺達が戦ってるのになぜ誰も駆けつけない?門番がいるから?いやそれはさっき俺達が来るときに倒した。ならなぜ…?」


 そもそもとしてホーリーサークルを喰らって無傷なのもおかしい。伝説によれば少なくとも四天王一人に致命傷を与えていたはずだ。


「…この空間にデバフでもかかってるのか?」


 (あるとしたら空間魔法。だがそんな魔法を使えるなんてほんの一握りの魔法使いだけ。なら目の前にいるのはその一握りなのか…?)


 彼は相手が四天王を名乗っている時点で気づくべきだった。目の前にいるのは魔族であり天才の魔法使いであるということに。

 マレインはゆっくりと階段の方へと向かう。


「なんだ逃げる気か」


 レヴィアタンがそんな言葉を投げかけ挑発するが無視。そうしてマレインはに行く手を塞がれた。


「は、は…マジかよ」


 マレインはしっかりと"それ"を確認し認識する。

 自分たちが戦っていい相手ではなかったと。

 同時に絶望する。自分達はここで死ぬさだめなのだと。


「英雄…見つけられなかったなぁ」


 彼はそうして立ち尽くした。もう抵抗の色はない。ただこれから何をされるのだろうとそれだけを考えていた。


  ◇◇◇


「時計台を見てきてくれませんか」


 目の前の老いぼれはルーク達にそう言った。


「な、なんで俺達が」

「あ、いえ、深い理由はないのです。ただここ最近この国が不安でして、他国の人に頼ってみてはどうか、と。」

「自分では行こうと思わないのか?」

「思いましたとも。ですが門番が入ってはならないと言いますので少しきな臭さを感じているのです。こう見えて私、観察眼が鋭いものでねぇ。」


 ホッホッホと軽く笑いこの場の緊張を解す。


「老いぼれからのお願いです。どうか私の代わりに…」


 それに応えたのはルーク…ではなくミヤだった。


「ふふん!しょうがないから行ってあげるわ!」

「う、上から目線…」

「何よ、主導権はこっちなんだからいいでしょ!」

「そ、それでも礼儀っていうのは…」

「知らなーい」


 そう言いミヤはルークを見る。


「……はぁ、わかった。どうせ時間なんて無限にあるんだ。行ってみよう。」


 そうして三人は時計台へと向かった。


―――――――――――――――――――


「門番…いないな」


 時計台前にてルークたちは辺りを見渡す。先ほどと変わらない風景が流れている。


「入ってみるか」


 そう言ってルークは歩き出す。それにミヤとシルタはついていく。だがそこでミヤは足を止め「あっ」と声を発した。その声はあまりに小さく近くにいたシルタでさえ聞き取れなかった。



「特になんもなさそうだが…」

「な、何か探知魔法とか、ないの」

「んあ?あーあるな。」


 そうしてルークを中心に何かが展開される。それは半透明で特段意識しなければそこにあるのかさえわからない。


「…何も、映らない…」


 ルークがボソッそうつぶやく。


「何も?ってことはなんの異常もなかったってことだよね?」

「……シルタ。探知魔法ってどういうものかわかってるのか?」

「え?探知するんじゃないの?人とか」


 ルークは肯定する。


「そうだ。だがそれだけじゃない。これは、地形も調べることができるんだ。」

「そうなんだ。初めて知った。それで、何か変なの?」

「…地形も映らなかった。俺たちがいるここも。」

「え?」

「この空間に何かが上書きされてる。それに阻まれて正常な探知ができなくなってる。」


 「つまり」とルークは付け加える。


「空間魔法がここで使われている。」

「え…というかミヤは?」

「は?あいつどこにいった!?」


 辺りを見渡してもミヤらしき影は見えなかった。


  ◇◇◇


「終わりだな」


 そんな声とともにレヴィアタンの指先が光りだす。


「その剣で多少は免除してやる。楽に殺してやろう」


 光が膨張し、収縮、収束、圧縮、凝縮される。

 光が物体として質量を持つ。


「…マレ、イン!」

「…ごめんな、フマル。こんな弱っちい兄で」


 空間魔法を破るすべはない。どれだけ圧倒的な力で殴ろうとも圧倒的な攻撃力の上級魔法を使おうとも壊れはしない。もちろん耐久力は術者の魔力量と練度に左右される。よってこれが破壊不可能だと悟る。


「…あ…もしかしたら、俺たち英雄に――」

「――あいつ勝手にどこ行ったんだぁぁぁぁぁ!!!!」


 ガラスを破るかのように見えない壁の向こうから二人の男が現れた。

 空間魔法が力強く拳を構えた男に破られたのだとこの場にいる全員が一瞬で理解する。


「なんだこの空間魔法。もろすぎだろ」


 いきなり現れた男、ルークは拳を見つめる。


「俺ならもっと強いの出せるのに………ん?」


 必然的にルークとその場に倒れているマレインとフマルに視線が行く。


「あれ、どこかで会ったような…」

「あぁ、そうかお前か」


 マレインが目を見開く。まるで探していたものを見つけたかのように。


「ここに駆け付けるのがよりにもよってあなただなんてね。あと、今の僕たちにならわかるよ。あなたが、英雄。」


 フマルは何か思いを馳せるかのように視線を上に向ける。


「武闘家のルークか」


 情報に富んだ彼らは一瞬で理解する。その男の存在を。

 そうして双子はいつもの口癖を口にする。


「「あぁ、最悪だ」」

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