台北怪談 血の記憶

星月夜

序章:悪夢の招待状

 夜風が蒸し暑い台北の街を吹き抜ける。古いアパートの小さな一室で、大学生の林俊介(リン・ジュンジェ)は、友人の阿偉(アウェイ)とビールを飲みながら、ネットの怪談掲示板を見ていた。

「おい、これ見てみろよ。『人面魚を釣った男』っていう話、知ってるか?」

 阿偉が興奮気味に言った。

「昔、高雄で実際にあった話らしいぜ。釣れた魚の顔が人間の顔でさ、それが『魚!魚!』って叫んだんだって」

 俊介は興味なさそうにスマホをいじっていたが、その話に少しだけ耳を傾けた。

「そんなの、ただの作り話だろ」

「違うんだって!この掲示板には、その『人面魚』の目撃談が他にもたくさん書き込まれてるんだ。しかも、みんな口を揃えて言うんだよ。『もし見かけたら、写真を撮るな。音声を録音するな。そして、絶対に目を合わせるな』って」

 阿偉が不気味な声で語るのを聞きながら、俊介はふと、アパートの窓から見える路地裏に目を向けた。街灯の光が届かない暗がりに、赤い服を着た幼い女の子が立っているような気がした。

「気のせいか……」

 俊介がそう呟くと、突然、スマホの画面に通知が表示された。差出人は不明。メッセージはたった一文だった。

「お前も、見たんだな?」

 翌日、大学に向かう途中の道端で、俊介は不思議な光景を目にした。屋台で売られている、ごく普通の鯉の顔が、一瞬だけ、人間の顔に見えたのだ。俊介は思わず後ずさり、その場を離れた。

 その日の夜、彼は奇妙な夢を見た。

 深い森の奥にある池で、彼が釣りをしている。リールを巻くと、釣り糸の先に大きな魚がぶら下がっていた。その魚の顔は、昨日の屋台で見た、あの鯉の顔だった。そして、その魚が口を開け、

「お前も、見たんだな?」

 と囁いた。

 俊介は恐怖に震えながら目を覚ました。ベッドの横に置いてあったスマホが、画面を光らせていた。

「お前も、見たんだな?」

 昨日と同じメッセージが、未読のまま表示されている。しかし、今回のメッセージは、送られてきた時刻が夢の中の時間と完全に一致していた。

 彼の悪夢は、まだ始まったばかりだった。

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