傘は2本だった。

@6a_ruqua

傘は2本だった

私と彼はいわゆる恋人という関係で駅までの帰り道二人で帰るのが日課だった。

雨が苦手な彼と、彼との距離が近くなる時間が増えて雨が好きな私。

相合傘をするのは私にとって一つの思い出だった。


性格も違えば、趣味も違う。だけども博識で本を読むのが好きな彼が気になった私は何か話すきっかけが欲しかった。でもやっぱり読んでいる本のジャンルもまるで違くてきっかけすらなくて。だけどどうしてもきっかけを作りたくて。


そんなある日のことだった。『雨』についての詩や短歌を考え発表する授業があった。

彼は雨は嫌いだけど雨を凌ぐ傘は好きだという詩を発表した。傘の色や柄そういったところからその人はどんな人なんだろうかと物語を作るのが好きだからと言った。


私は一日その言葉が離れなかった。

その日は授業に合わせてなのか雨が良く降っていた日だった。

こんな雨の中帰るなんてツイていない。なんて思ってると帰ろうとする彼を昇降口で見かけた。

これは一世一代のチャンスだと思った。今日は話せる話題がある!!

持っていた傘を傘立てに置いて彼に話しかけた。


「私たちの物語作らない?」

我ながらなんてくさいセリフを言っているんだと思った。だけど彼はクスリと笑って傘に入れてくれた。そこからだった。彼と私の物語が始まったのは。


彼と付き合うようになって変わったこと。それは雨が好きになったこと。雨の日は彼と肩の距離が近くなって。そしてこれが一番好き。彼と一緒に傘をさしている人たちの物語を考えること。性格も趣味も違う私たちが作る物語はほんとうにそれぞれで。だけどたまに二人の作る物語が壮大に混ざり合って駅のホームで何時間も話し込んだりもした。


変わらないものはないし永遠なんてない。けれど永遠を願いたい程。そのくらい大好きで大切な時間。


だけどその永遠も終わりが来てしまった。彼の最後の表情、どんなだったっけ。何も思い出せないや。


彼と別れて初めての雨を迎えた。私の感情を表すかのような雨。もう彼と駅まで歩くことも、物語を作ることもなくなる。小説に終わりがあるように、私たちのスピンオフも完成してしまったのかな。私はまだまだあとがきにすらたどり着いていないよ。


雨が強くなる。今日だけはこの通学路から早く離れたかったのに。天気はお構いなしだ。それでも私はとにかく走る。水たまりなんて関係ない。雨の道を走る私の音だけ。ただそれだけが私の脳に響いていた。どのくらい走っただろう。気が付いたら駅のホームに立っていていつの間にか夕立は止んでいた。


今日からは一緒に物語を作ることもなくなるんだね。



ねえ、今私の足元にあるのは二本の傘なんだ。

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