いいことを教えてあげる

猫月蘭夢@とあるお嬢様の元飼い猫ショコラ

坊っちゃん

 これは、僕の知らない生まれたばかりの頃の話。

 僕の知らない母様と父様の、お話。


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 子供が生まれた。


 仕事中の父親の元にそんな知らせが届いた。

 僕の父親はその知らせを無視し、仕事を続行したそうだ。

 その事実を知った母親は怒り狂い周囲にあるもの全てを壊していったそうな。


「この子が、この子が悪いのよ!あの人が帰ってこないのはこの子が悪いの!あの人は子供を産んだら帰ってくるって言ってくれたもの!この子が、この子が、この子があの人を呼ばないから悪いのよ!」


 泣き喚き、ヒステリックに叫ぶ。

 目につくものをとにかく手に取りどこかへ投げる。その姿に赤子である僕が投げられるかもしれないと看護師さんは思ったのか保護を決行したそうな。


「なんでその子を私から奪おうとするの?ねぇ、あなたも私の敵なの?ねぇ、なにか喋ってよ。ねぇ、ねぇってば!」


 保護を決行しようとしたとき、当然のように母親は暴れた。


「その子は私の子よ!私の子を奪おうとしないで!」


 彼女の夫が帰ってこないという知らせを受けたときよりもさらに暴れた。

 既に暴れたあとだったため、周囲から物を撤去してたのが功を奏した。投げようとしても投げるものがないから。


「その子は私の子なのよ!私がお腹を痛めて産んだ子供!あなたの子じゃない!返して!」


 暴れる暴れる。彼女の体はベッドと繋がれ拘束されていた。故にこそ子供を、僕を引き剥がすのは簡単だった。


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 そんな話を聞かされた後に知らない女の人に会わされて、聞かれたことがある。


「ねぇ、今幸せ?私からあの人を奪って返さなくて、幸せ?」


 愚問でしかない。あの話のようにヒステリックな母親でも、無関心な父親でもない素晴らしい両親を持つ僕は今、幸せです。


「へーふーん。そう。じゃいいわ」


 そういって、彼女は去った。


 彼女が一体どのような人物なのか、僕には皆目検討もつかない。けれど、不思議と何処かであったことがある気がして。

 何度も夢で見たことがあるような、そんな既視感があった。

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