第35話

「わあ、いい匂いする」


 放課後に柊とやってきたのは近所の焼肉チェーン店。


 食べ放題とかもある、いわゆるリーズナブルな店で俺も家族で何回か訪れたことがある場所だ。


「ここ、安いけど美味しかったんだ。来たことある?」

「ううん、初めて。だから楽しみ」

「よし、じゃあせっかくだからちょっと高いの頼もうか」


 一番いいセットをタッチパネルで二つ注文すると、すぐに店員さんがお肉を持ってきてくれた。


 するとすぐに柊がトングでお肉を網へ乗せてくれた。

 

「んー、いい匂いだね」

「柊さん、俺がやるよ」

「んーん、私がする。こういうの、好きだから」


 マメに肉をひっくり返して、両面が焼けると俺の取り皿に肉を入れてくれて。


 何枚か自分のところにも肉を取ると、小さい口ではふはふと、熱そうに肉を食べてから。


「美味しい。いいお肉だね」

「でしょ? いっぱい食べようよ。明日からまた忙しいし」

「うん。あのね、昨日私、寝る前に何か言ってなかった?」

「え? な、なにか言ったっけ? 気がついたら寝てたからさ」

「そ、そっか」


 少し残念そうにする柊を見て、少し悪い気はした。


 昨日、柊が寝る前に確かに会話はあった。

 ただ、それを今言うのはちょっと違うかなと。


 嘘をついているようで申し訳なかったけど、この気持ちは改めてちゃんと伝えたい。


「まあ、疲れてたみたいだし。今日はいっぱい食べてスタミナつけよう」

「うん。スタミナつける。ねえ、今日もゲームしない?」

「うん、もちろん。でも、疲れてない?」

「昨日ぐっすり寝れたし、今日は仕事も休みだから。そういえば昨日の罰ゲームはまだ有効?」


 はふはふと、お肉を食べながら柊が上目遣いで聞いてきた。


「え……いや、それは仕切り直しじゃダメ?」

「んー、どうかなー。そういえば私の言ってほしいこと、思いついた?」

「ええ、どうだろ……今はちょっと思いつかないなあ」


 あはは、と笑いながら誤魔化すと。

 柊はまた、残念そうな顔をした。


「そっか。うん、じゃあ、今日勝ったらちゃんと考えてね」

「……うん。ちゃんと考えるよ」

「じゃあ、いっぱい食べて帰ろっか。お肉焼くね」


 せっせと肉を焼く柊の少し赤らんだ顔を見ながら俺はやっぱり彼女への気持ちを再確認した。


 可愛い。

 そしていつも俺のために頑張ってくれる彼女を他の誰かに取られたくない。


 焼肉デートでこんなことを言うなんて、さすがに雰囲気がないなあとか、今日の夜にまたゲームするなら、その後でもいいかなとか。


 色々、逃げ道を考えていたけど。

 昨日のことも、なかったことにしようかなとか考えたけど。


 先延ばして、何かいいことがあるわけでもない。


 俺は。


「柊さん」

「ん? どうしたの?」

「……昨日の話だけど」


 肉が焼ける音にかき消されないように。


 俺ははっきりと。


「俺、柊さんのこと……好きなんだ」


 


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