第28話

「いつもうちの娘が大変お世話になっております」


 柊が戻ってきて柊母の隣に座るとすぐ、柊母が俺と母に深々と頭を下げた。


「そんな、こちらこそ雪愛ちゃんには本当にお世話になってます。ねっ、新」

「は、はい。その、いつも柊……雪愛さんには助けられてばかりです」


 こちらも頭を下げると、柊母は柊の方を見ながらクスッと笑う。


「ふふっ、大事にされてるのね。あんたが気にいるわけがわかるわ」

「もう、やめてよそういうの」

「照れないの。それより、早く本題に入りましょうか」


 二人がこっちを見ると、少し場に緊張が走った。


 そして、


「私、この度海外に行くことになったんです」


 柊母が俺を見ながらサラりと言った。


「え、海外? それじゃ柊さんも」

「ふふっ、寂しそうね。でも、安心して。この子はついていかないわ」

「そ、そうなんですね。でも、それだと」

「この子に一人暮らしなんて無理だから。それで、新君のお母さんには了解してもらったのだけど、ここに雪愛を居候させてほしいの」

「居候……居候!?」


 あまりの驚きに大声を出して立ち上がると、隣の母がグイッと俺の袖を掴んで座らせた。


「新、失礼よ。それに、雪愛ちゃんはもううちの家族みたいなものなんだし」

「そそ、それはそうとしても、え、一緒に住むってことだよね?」

「何も一緒の部屋に住むわけじゃないし二人っきりなわけでもないでしょ。ただ、一応あんたが嫌ならこの話はなかったことにするって雪愛ちゃんのお母さんがね。どうなの?」

「どうなのって……」


 そんな大事なことを俺の一存で決めていいものなのか? 

 それに、俺以上に肝心の柊はどう思ってるんだ?


「あの、柊さんはうちに住むのは、その、嫌じゃないの?」

「うん。ずっとここで働きたいし、嬉しいなって」

「そ、そっか」

「でも、もし森崎君が私といるのが嫌なら無理は言えないかなって」

「い、嫌なわけないよ。その、柊さんがいいのなら俺は……」


 むしろ嬉しいくらいだとまでは声に出せず。

 しかし、俺が嫌がっていないことが伝わったのか、柊たちは顔を見合わせて少し笑顔を浮かべた。


「じゃあ、決まりね。雪愛、しっかり働くのよ」

「うん。頑張る」

「じゃあ私は渡米の準備もあるからこれで」


 まだ食事もそこそこに、柊母は席を立った。


「あら、そんなに慌てなくても」

「いえいえ。ほんとこちらこそご迷惑をお掛けします」


 母同士が挨拶して。


 柊母は店を出る時、俺を見ながら手招いた。


「は、はい?」

「新君、君に一つだけ」


 耳元で。

 他の人には聞こえないようなか細い声だったけど、俺にはその一言がはっきりと聞こえた。


「雪愛、ここに永久就職したいそうだから」


 

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