【掌編集】✨💎掌編の宝石箱💎✨

天城らん

そして気づくこと


 私はずっと、祖母を大魔法使いだと思っていた。


 お料理が上手で、枯れた木に花を咲かせたり、病気の動物を治したり、もちろん私が風邪で苦しんでいるときも祖母の煎じ薬を飲めばたちどころに治ってしまった。




 ――― 大好きなおばあちゃん。




 だから幼い頃、祖母は魔法の国からやって来た『魔法使い』で自分もいつかは魔法が使えるようになると夢を描いていた。


 けれども、中学に入るころになって、祖母は普通の人間で『魔法使い』ではないことが理解できるようになった。


 魔法使いでない……とがっかりした私は、祖母に八つ当たりをし、不運にもその日に祖母は病で倒れたのだ。


 ひどい言葉を投げつけたことをずっと後悔したが、なかなか謝ることができなかった。自分が、魔法使いになれないと幼い私は認めたくなかったのだ。




 ☆




 祖母が、病室に私だけを呼んだことがあった、それは亡くなる数日前のこと。


「真美ちゃん、困ったことがあったらこの箱を開けるのよ。とびきりの魔法をかけたからね」


 そういいながら笑顔で、鍵と小さな宝石箱を私に託した。


 お礼の言葉も、謝罪の言葉も胸でつかえて出てこなかった。


 代わりに、大粒の涙がいくつも滑り落ちた。


 しかし、私が謝ることができたのは白い花で囲まれた祖母にだった……。




 ☆




 私は、子供だましだと思いながら、その箱を開けることも捨てることもできなかった。


 けれども、いつしか私は本当に『宝石箱』に魔法が詰まっていると信じはじめていた。




 ―――大好きだったおばあちゃん。その最後の魔法が私の手元にある。




 そう思うだけで、なんだか心強い気がした。




 ☆




 それから、私は困ったこと出会うたび、『魔法の宝石箱』を開けようとした。


 好きな男の子に告白しようとしたときに使ってみようと思ったが、まだ使うときではないと開けずに告白した。ふられてしまったが、ちゃんと自分の気持ちを伝えることはできた。


 どうしてもE大学で勉強をしたくて、受験勉強の最中に箱に手を伸ばしたがやはり開らくことはできなかった。しかし受験会場まで持っていったおかげか合格することができた。


 仕事で失敗をし、やめてしまおうと思ったときも蓋は閉じたままだった。


 今まで、何度も何度も、宝石箱を開けようとした。けれど、その度に、おばあちゃんの声が聞こえる気がした。


「真美ちゃん、元気の出る魔法あげましょうね」


 そういって、どこからともなく大きなアメを取り出して驚かしてくれたものだ。


 それを舐めながら、黙って泣いていると、私の頭をなでながら『真美ちゃんはいいこだから、大丈夫。笑顔でいれば、きっといいことがやってくるからね』




 ☆




 私も、大人になった。


 けれど、私はまだ宝石箱を一度も開けてはいない。


 この箱の中に何が入っているのか…、私にはもう分かる気がするから。


 きっと、おばあちゃんがいつもかけてくれた『最高の魔法』


 大きなアメと大丈夫の言葉。


 そう、とびきりの魔法がこの中には詰まっている。




 そして、気づくのだ。




 おばあちゃんは、やっぱり大魔法使いだったということを……。




 ☆End☆

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