清楚系生徒会長の秘密の講師になりました。~ミステリーを楽しむためのラブコメ小説~
夜野 舞斗
1時間目 ミステリージャンルを知っていくために
Ep.1 ミステリーって何でしょう?
誰だって大きなおっぱいを押し付けられたら、理性が飛んでしまいそうになる。
「く、苦しい……」
「み、見たのよね! 見たのよねっ!? わ、私の破廉恥なところ!」
いや、今見せてるのがまさにそうなのでは、と。窒息しそうな二つのむにゅむにゅする胸から顔を離して言わせてもらおうとしたのだが。
今度は眼鏡の鋭い眼光とスマートフォンのライトが浴びせられていく。
「ま、眩しい……ちょっ……」
「誰かが来ないうちに吐いてもらうわよ。本当に、わ、私の見たの?」
何を見てしまったのか。派手な下着とかだったら、案外楽なのかもしれない。彼女の生徒会長の品位としては何処かに飛んでいくとは思うが。
それでいい。
しかし、僕が見てしまったものは違う。
「
自撮りを見せつけられる訳ではない。
彼女の小説サイトのアカウント、だ。本当にたまたま。放課後、彼女が教室で置いてあったスマートフォンを見て、生徒会の部屋に届けたのが運の尽き。
すぐさま近くにあった椅子に座らされて、拷問を受けていた訳だ。
確かに出ているのは見たが、それは思い切り彼女のミスではないだろうか。
今までの清廉潔白で大人しい文学少女。それでいて巨乳でスタイル抜群。眼鏡っこなところも好ポイント。成績も優秀だから皆からの憧れの的。そんなイメージが目の前で爆音と共にぶっ壊れていく。
「み、見るしかなかったんだよ……」
「ふぅん……どう思ったの?」
「思ったって……下着の感想みたいな感じで聞くなよな……」
「どう思ったの!?」
ギロッと睨まれて、僕は本音を出さずにはいられなかった。
「いや、まさか、
すぐに彼女は体を翻し、頭を抱え始めた。
「ああー! 生きてけない生きてけない! 恥ずかしくて生きてけない!」
「そ、そんな……卑下することないだろ……? 小説を書くのだって楽しいぞ?」
「いや、だって黒歴史を淡々と塗り重ねているだけなのよ! あんなこと、こんなこととか色々考えて書いてるのに……感想も何も来ないし、恥ずかしいって……あれ? 『も』?」
「も?」
急に彼女は情緒が安定したかと思うと、こちらの手を取ってきた。
「も……がどうかしたのか?」
「も?」
「も……って何回繰り返すんだよ……」
「も、なのよね。ってことは輝明くんも小説、書いてるの?」
こちらとしては隠す必要はない。本好きでは知れ渡っているから。気になった物語の続きを書いていたら、気付けば自分でオリジナルのストーリーを考えるようになり。部活も入らず、趣味の一つとしてやっているものだ。
僕はさっと自分のスマートフォンを見せる。
「これ……?」
「嘘!? ミステリーで一位じゃない!? どうやって取ったの!? 不正とかじゃないでしょうね……?」
「い、いや……別に普通にやってたら……」
「ミステリー書こうと思ってたのよ! ずっとずっと……難しそうだけど書きたいって思ってて」
いきなり立場が逆転した。今や彼女が僕に
「書こうって? ミステリーを……まぁ、いいんじゃない?」
その瞬間だった。彼女は恐ろしい言葉を放つ。
「で、ミステリーって何かしら?」
ん? ミステリーを書こうとしたところまでは記憶はある。そこからの記憶が抜けたか。
「……ええと、それは異世界に転生して魔王を倒しに行こうって話でないことは知ってるよな?」
「……馬鹿にしないで。その話をしてるんじゃなくて……貴方のミステリーって何って思って聞いてるだけよ」
良かったと胸をなでおろす。どうやら、無知な訳ではないらしい。
「まず、風村さんのミステリーについて聞いておきたいんだけど」
「よく見るのはアニメの三十分の。殺人事件が起きて解決するっていうの。後湯煙の温泉でよく殺人が起きて、女将さんが謎を解いたり……あっ、刑事ものも見るわよ? 刑事が殺人事件の犯人を追うの!」
「……まぁ、間違ってないね」
「でも幽霊が出るのはどの線までOKなのかしら。ホラーってよくミステリーと一緒にされがちじゃない?」
彼女が幽霊の真似をしているのか。何故か紅い舌までペロッと出すものだから、心臓が飛び出そうになってしまった。
「かわいい……」
「ん? かわ」
「あっ、いや、そうじゃなくって。人によって変わるってことだね。ミステリーって言うのは全体的に謎を解くお話だからさ。幽霊の謎に焦点を当てるなら、ミステリーにもなりえちゃうし……」
「そうなの?」
僕の意見はこうだ。
「謎解きにストーリーの全体に入れてるのなら、それは立派なミステリーだと思う。ファンタジーで敵の謎を解くっていうのもあるし、ゲームでもアクションに謎解きが入ることはあるけど……謎を解くことでお姫様も助かってめでたしめでたし位のスケールの謎じゃなければ……それはミステリーじゃないとは思う」
そんな彼女がふと定規を振りかぶって、僕に告げる。
「じゃあ、バトルと両立してる話は?」
「えっ?」
すぐさま真剣白刃取り。もう少しで額に当たるところだった。
「だから、推理の後に闘いがあるファンタジーとかってどうすればいいのかしら? それに謎が解けないミステリーもありなの?」
取った定規を降ろしながら、疑問に答えていく。これも一応自論はあったりする。
「バトル要素のあるミステリーだね。探偵と戦士の両方を合わせ持つ主人公が活躍する話。それに関しては作者が探偵にしたいか、戦士にしたいのか。キャラとよく相談することが大事だと思う」
「で、謎が解けない方は?」
「これもアリだと思う。だって……」
「だって?」
「読者に推理をさせるミステリーもあると思うよ。誰だって主人公になれる権利はあるんだから……」
その言葉にじっと黙り込み、こちらの顔を舐め回すように見つめてくる彼女。
答えに納得ができなかったかなと思い焦る僕。大丈夫かな、と思った瞬間だった。
「……あのさ、この部屋って午後六時以降になると誰も来ないのよ」
だから……。
「えっ、あっ、僕に何を……はっ!? 変なことをしようと!? そういうのは早いんじゃ!?」
「……いや、貴方にミステリーの講師になってほしいなって。誰にも内緒の秘密の夜の講師に! ダメ、かしら?」
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