1日 Free Day


「ヤバい!」


――バタンッ!!


 声と共にけたたましくドアが開け放たれ、普段は滅多に見られないほど動揺し、焦った表情をした白いショートヘアの青年が室内へ飛び込んできた。


 自分の自宅からこの部屋まではかなり距離があるが、走って来ても頬は赤いだけで息一つ乱れていない。……流石は瞬発力最速のうさ耳ゆえの身体能力か。


 紅の瞳が、この部屋の主である窓際の青年へと真っ直ぐに向けられる。


 窓辺の気に入りの椅子でのんびりと朝のコーヒーを飲んでいた青年は、一瞬、座っていた椅子から腰を浮かせた。


 動きに合わせて、深くて蒼い長髪が揺れる。


「コウ、どうした? お前にしては珍しいな」


 持っていたカップをテーブルへ置くと、彗(セイ)は極力平静を装いながら完全に立ち上がった。


 一方、コウと呼ばれた青年はドアを閉めると、急いで彗の方へ歩み寄る。


「お忍びで同盟国の視察に来ている白ウサ王国のうさ王様が……」


 そこで一旦止まった言葉の後に、コウと彗の間に嫌な予感が走る。


(聞きたくない気がする……)


 そう思ったが、彗は黙って続きを待った。


「うさ王様が……いなくなった」


「クロさんが一緒だろ?」


 即座に返した言葉に、コウはゆっくりと首を横に振る。


「朝食の変更でちょっと目を離した隙に、部屋にこれが……」


 そう言ってコウが差し出した便箋を目にした瞬間、彗は思わず盛大なため息を吐いた。


 うさぎの透かしが入った真っ白な便箋には――


――『友達と一緒にちょっと遊びに行ってくる♪』


 そう書かれていた。


「待て?! “友達”って……まさか」


 思い当たる節があるだけに、彗は恐る恐るコウの顔を見た。


「その、まさかなんだ……今朝、起きたらじいちゃんが既に家からいなくなっていて……」


 コウと彗は顔を見合わせ、特大のため息を吐くと同時に叫んだ。


――『うさじいちゃん……勘弁してくれよ!!』




【1日 Free Day】



――【お忍びでの視察】――



 白ウサ王国は、うさ瓶ランドの同盟国として友好条約を交わしている大国。


 同盟成立当時、うさ瓶ランド以外にも「うさ耳の住人がいる国がある」ということで話題になり、今では白ウサ王国へ観光に行く国民や、逆に白ウサ王国から訪れる観光客も多い。


 若くして即位したうさ王は、時折うさ瓶ランドを訪れ、従者を伴ってこっそり「視察」と称した息抜きの観光を楽しんでいた。


 しかし、今回のようにいきなり失踪するとは……誰も予想していなかった。


 うさ王がいなくなった来賓専用の宿泊室で、3人の青年が静かに考え込んでいた。


 ベッドの脇には、いつも彼が被っている王冠がそっと置かれている。


「……あけに頼んで、じいちゃんの気配を追ってもらうか」


 魔力で気配を追える友人の名を出した彗に、コウが首を振る。


「あけさん、今は翠と組んで“例の件”で潜入捜査中で……」


「あの件か。よりによって、こんな時に……」


 彗が思わず渋い表情を浮かべた。


 2人の会話を聞いていた青年が、俯けていた顔を上げる。


「例の件とは? 温和なうさ瓶ランドにしては……何かあったのですか?」


 黒い短髪と青い瞳が印象的な、うさ王の従者で護衛のクロが静かに問う。


 この青年にはうさ耳はないが、うさ王から最も信頼を置かれ、家族のように接されている。

 本人もまた、誰よりもうさ王を大切にしていることが伝わってくる。


 今にも部屋を飛び出して探しに行きそうな雰囲気が漂っていた。


 コウは一瞬、言うべきか躊躇い……やがて静かに口を開いた。


「今回の視察はお忍びで、一部の要人以外は知りません。政府も既に潜入捜査を始めていて、数日以内に片が付く見込みでしたので……お伝えしていませんでした。ですが……今、うさ瓶国内では“イケメン”ばかりを狙う誘拐が、同時期に複数起こっているんです」


「?! イ、イケメン狙い……ですか」


 流石のクロも驚き、一瞬言葉を詰まらせた。


(イケメンばかり……どんな理由だ?)


 心の中で疑問を抱きながらも、クロは表情を整える。


 コウは続けて事件の概要を語った。


 ――この事件は必ず“1人でいる時”を狙って起こる。

 現段階で複数名が誘拐されており、共通の特徴も浮かび上がっていた。

 今回は、その特徴に該当するコウの弟が仲間と共に潜入捜査を行っているという。


「その特徴とは?」


 クロが問うと、コウはスーツのポケットからスマホを取り出した。


「10代後半、銀髪、攫われたのは全員“うさ耳のイケメン”。……うさ瓶北区で限定的に起きている事件なんです。北区は……ちょっと、なんでもありな雰囲気の地区ですから。今回はうさ王様の視察には入れていませんでした」


 どこか歯切れの悪いコウの説明に、クロはひそかにため息を漏らす。


 まさか、朝食のメニュー変更を頼まれている間に、いなくなるとは……。


――完全に確信犯である。


 おそらく、同行しているのが退役軍人であり、コウの祖父でなければ――クロはすでに飛び出して探していただろう。


「北区か……行きそうには思えないが、今はあけがいないし……仕方がない。一夜へ行ってみるか」


 そう言い、彗は部屋を出ようとする。


「待ってください! うさ王様を探すのなら、私も一緒に行きます」


 背後から駆け寄るクロに、彗が振り返った。


 ただの側近ならここに残らせるところだが、クロの性格を多少知っている彗は分かっていた。

 ――置いていけば、1人でも探しに行きかねない。


 彗は頷き、コウへ視線を送る。


 コウも頷き返し、ポケットから四角い文字盤の腕時計を取り出してクロへ差し出した。


「トランシーバーです。万が一、彗と離れてもある程度の距離なら会話が可能です。持って行ってください……オレはここで、何か動きがあったら各自に連絡を回します」


「お借りします」


 クロは腕時計を受け取ると、その場で腕に装着した。


「あの……」


 彗と共に行こうとしたクロに、コウが思い切って声をかける。


 外交を担う青年とはすでに顔馴染みで、普段は柔和で温厚な彼が……今はどこか翳っていた。


「すみません……こんな事になってしまって。しかも祖父のせいで……」


 紅い瞳が曇り、潤んでいるように見えるのは気のせいか。


 クロは首を振り、ほんの少し苦笑を返した。


「それを言うなら、うさ王様も同じです。いくらお忍びの視察とはいえ、他国でまで自由が過ぎます。それに……前回、遊びに来られたギン殿に“うさ瓶ランドを案内してくれ”と話していましたから」


 その一言で、室内に沈黙が広がった。


(……はぁ)


 3人は同時にため息を吐き、それぞれ行動を開始した――。



 ――【他国の喧騒】――



 夏も近い日差しのせいか、街中はどこか華やいで見える。


 人々の間を縫って歩きながら露店を覗く2人のうさ耳は、とても楽しそうにしていた。


 祖父と孫のような2人連れ。


 うさ瓶ランド名物の瓶詰めアイスを食べながら、笑顔を交わしている。


 孫の方は銀髪のショートヘアにうさ耳を持ち、サファイアのような青い瞳が生意気そうに輝く、活発な雰囲気の青年だった。

 今流行りのブランド物の薄手のパーカーにジーンズがよく似合っている。


 祖父の方は温和で優しげな雰囲気で、白髪をオールバックに整えたうさ耳の短髪。眼鏡の奥のブラウンの瞳も柔和だ。


「美味いな、この味……ギンが買ったのはなんだ?」


「ワシのはチョコミントと抹茶のミックスですよ。陛下が選んだ、一番人気のフルーツミックスも美味しそうですがの」


 “陛下”と呼ばれた青年は、やや不服そうな顔をする。


「今日は無礼講だ。“陛下”は無し。言葉も普通にしないと怪しまれる」


「おっと……そうでしたな。では、どうお呼びしようか……」


 ギンと呼ばれた翁は暫く考え、思いついたように顔を上げた。


「うさ王だから“うさお”でどうですかな? ワシのことは“じいちゃん”とでも呼んでくだされ」


「おっ! それで行こう!! じいちゃん、か……祖父が出来たみたいだな」


 青年がどこか嬉しそうに見えるのは、複雑な境遇で家族がいないこともあるのだろうか。


 ギンはニコニコと笑顔を返した。


「コウや翠と同じく、祖父のじじぃと思ってくだされ。ワシを祖父と思って慕ってくれる子は孫達の他にもいる」


 その言葉に、うさ王はパッと瞳を輝かせた。


「よし、今日は“じいちゃんの孫のうさお”で決定~!」


 豪快に笑い合い、即席の祖父と孫の誕生だ。


 だが……片方は白ウサ王国の王、もう片方は退役したとはいえうさ瓶ランド軍部の幹部軍人。

 今は宿泊施設を抜け出し、こっそりと街を散策している。


「お忍びの視察といっても、実際の国の姿を見せてはくれないからな……抜け出さないとわからないことが多い」


 アイスを食べ終えたうさ王が、ぽつりと呟いた。


 うさ瓶ランドは王政ではなく、国民選挙で選ばれた統治官が行政を担う。

 他国の要人が来訪すれば当然、裏は隠して綺麗で華やかな部分だけを見せる。


 だが、この若き王は――そうした“上辺だけ”を見たいのではなかった。

 そう思ったがゆえのプチ脱走。


 本人はただ遊びたいだけかもしれないが……。


「じいちゃん、次はどこへ行く? 行ってみたい場所があるんだ」


 ワクワクと輝く青い瞳に、ギンも思わず頬を緩める。

 普段着をまとった彼は、確かにただの若者にしか見えない。


 一国の王ではなく……ひとりの青年として、ほんのひとときでも楽しませたい――そう思った。


「うさおはどこへ行きたい? ワシから離れなければ、大抵の場所なら行けるぞ」


 そう言うと、うさ王はぐっと身を寄せてきた。

 好奇心旺盛なうさぎの気質は、どこの国も同じらしい。


「うさ瓶北区に行ってみたいんだ。普段の視察では行けないけど、物凄くゴチャゴチャしてて楽しそうな地区って聞いてるから」


――“うさ瓶北区”


 その名を聞いた瞬間、ギンは一瞬悩んだ。

 だが、中心街の安全な区域ならいいだろうと頷いた。


「北区は突然ロボットが暴れたり、実験の影響で祭り騒ぎになったりする……とんでもない街だから、絶対にワシから離れるなよ」


「ロボットが暴れる?! 祭り騒ぎ……ハチャメチャだな! わかった、じいちゃんから離れない。連れてってくれ!」


 ギンは頷き、2人は駅へ向かった。


── ✦ ── ── ✦ ── ── ✦ ──


 うさ瓶中央区の喧騒から離れた路地裏の一角に、その店はあった。


 ゴシック調でレトロな雰囲気。

 マホガニーの重厚なドアには、赤みを帯びたアンティークゴールドの文字で【BAR―Hitoyo―】と書かれている。


 ドアを引いて中に入ると、ベルが軽快な音を響かせた。


「店を開けるには、まだ早いぜ?」


 店の奥――カウンター越しに、店主らしき青年が1人。

 ニヒルな笑みを浮かべ、こちらを見返してくる。


「開店前なのは知ってるよ。イオさん、あんたなら普段と違う様子の情報を持ってるんじゃないかと思ってさ」


 彗はそう言い、クロと共に店内へ入った。


 イオと呼ばれた店主は、灰白色の髪に桜色を帯びた毛先の短髪。透き通る青い瞳を持つうさ耳の青年だった。

 ワイシャツの襟元を緩め、筋肉質な体にワイルドな雰囲気を漂わせている。


「軍部のあんたが朝っぱらから来るなんて珍しい。そっちの連れからして……探してるのは国外から来た“青い宝石”か」


 その一言に、クロの表情が険しくなる。


「彗さん、この方は……」


 重くなりかけた空気とは対照的に、イオは肩をすくめて言った。


「オレはただのバーテンダーさ。裏じゃ情報屋をやってる。軍部から政府要人、一般人まで……必要な情報を渡してる。安心しな、誰であっても他言無用は情報屋の常識だ」


 そう言うと、イオはスマホをカウンターに置いた。


 そこには孫と祖父のように見える二人連れの写真が映っていた。


「!! うさ、ぉ……いや、間違いなく探してる人物です」


 クロと彗は顔を見合わせた。


「他に手掛かりは……」


 彗が写真を見つめていたその時、表情が変わった。

 画面を拡大し、ある箇所を指差す。


 クロも険しい顔をする。


「北区へ行くつもりか……今はマズイ」


 拡大された画面の片隅には、“北区方面”と書かれたモノレールの案内板が映っていた――。



 ――【イケメン誘拐事件】――



 うさ瓶北区――サイバーパンク色の強いこの街は、義手や義足、医療技術と科学技術に特化した地区だ。

 だが昔から、機械部品のジャンク屋や謎の情報屋、得体の知れない店も多く……不慣れな者や観光客が裏路地に迷い込むと、ヤバい目に遭いかねない区画でもある。


 そうは言っても、根本的な気質が“うさぎ”のせいか、好奇心旺盛で活発な者や、優しく温厚な者が多い。

 人々の喧騒の中、物珍しい露店や店が立ち並ぶ。

 うさ耳も耳なしも、そして義手や義足の人も多いのは、この地区にその手の技術が昔から集まってくるからだ。


「じいちゃん……すごいな、この技術……」


 うさ王が辺りを見回し、圧倒されたように呟く。


「うちの国は魔力は強いが、機械はあまり発展していない」


「うさ瓶ランドは、魔力で怪我や病気の多くは治せる。だが……失ったものを“失う前のように戻す”のは、我が国の魔力ですら未だ不可能……。戦争で失った機能を補うため、そして万が一魔力が枯渇した時のための機械技術……。今は隣国と友好条約を結び、戦争も二十年前を最後に無くなったが……それ以前は、魔力を持つ我らは他国から脅威に映ったんじゃろうな……」


 自国の説明をしながら、ギンの顔には何かを思い出すような、僅かに切なげな表情が浮かぶ。

 それを聞いたうさ王にも、思うところがあるようだった。


「どこも皆同じだな……魔力は普段は良いことにしか使わないのに……」


 一瞬だけ鎮痛な表情を見せたかと思うと、うさ王はにぃ……と意味深な笑顔になった。


「じいちゃんは元軍人だろう? 守りたいものがたくさんあったからこそ、たくさん戦ったんだろうな……例えば奥さんとか」


「う、うさお……そりゃまぁなぁ……。ツキさんのほうがワシより強くての……“ワシに勝てたら結婚しよう”って言ってたのに……強すぎて……一回だけ勝てたのは、手加減してくれたんだと思っとる……」


(この爺さんより強いって、どんな婆さんだよ……?)


 一度、うさじいちゃんの自宅へお忍びで遊びに行った時、物凄く上品で笑顔の可愛いうさ耳のばあちゃんが美味しい料理を振る舞ってくれたのを思い出し、うさ王は苦笑した。


「じいちゃんは、ばあちゃんには頭が上がらないようだな」


「うっ……うさお、からかわないでくれ」


 図星を指され、ギンは顔を赤くする。


「いいな、そういう大切な思い出があるって」


「うさおも、これから作っていけば良いんじゃよ。楽しいことや嬉しいことを、たくさん」


 そう言われたうさ王は一瞬きょとんとした後、少し生意気そうに笑った。


「こうやって今、楽しい思い出を作って、それを抱えて国へ戻るんだ。だから……楽しもう」


「そうじゃな。若いうちにしか楽しめないことは多いからな」


 二人は重くなりかけた空気を笑い飛ばした。


 北区を満喫し、表通りの繁華街をひとしきり回り終えて、ひと息つこうと入った喫茶店でのこと。

 まだ昼食時には早く、店内に客は自分たちだけだった。


 ギンが手洗いへ立つ。念のため「絶対に席を離れるな」と釘を刺してから席を外す。


「さすがに子供じゃないからな。大丈夫」


 苦笑するうさ王を気にしつつ、ギンは手洗いへ向かった。


 ――うさ瓶ランドは温和で良い国だと思っていたが、やはり魔法絡みで色々あるんだな。

(クロは……怒っているだろうな……)

 黙って抜け出してきたせいで、唯一の家族のような存在の青年の顔が浮かぶ。

(……まぁ、間違いなく怒っているか)


 そんなことを考えていた時だった。


――カラン……


 床に何かが落ちるような金属音。

 そちらを見ると、何かの部品のようなものが転がっていく。

 義手か義足の部品かもしれない。


 うさ王は思わず席を立ち、それを拾おうとする。

 床が傾いているわけでもないのに、部品はするすると転がり、パーテーションの角で止まった。


 うさ王がそれを拾い上げた瞬間――

 甘い香りが鼻をかすめ、視界が急に揺れる。


(しまった……!)


 そう思った時には遅く、一瞬で視界が暗転した――。


── ✦ ── ── ✦ ── ── ✦ ──


 ここ一ヶ月の間に起きているイケメン誘拐事件。

 手掛かりがなかなか掴めないと思っていたら、首謀者は――“うさ耳の魔法で誘拐行動を隠蔽できる”らしい。


 本来ならこうした捜査に自分が深く関わることは少ない。だが呼ばれた理由には納得がいく。

 あけはずれた眼鏡を直し、倉庫の窓越しに見えるビルへ視線を向けた。


「翠(スイ)君が誘拐されて、上手く中に入れたと言うべきか……」


 バディを組む銀髪の少年を思い、少し心配になる。


 うさ瓶ランドでは有事の際、成人国民は必ず“うさ耳+耳なし”の二人組で動く【バディシステム】が基本だ。

 うさ耳は生まれつき魔法が使えるが、銃器類は音が響いて耳に悪いため使えない。耳なしは魔法は使えないが銃器を扱える。

 しかも、うさ耳の魔法は必ずしも攻撃系とは限らない――互いにカバーし合うために考案され、長年運用されてきた。


 あけのバディである翠は、十八歳にしては幼い見た目のかなりのイケメン。事件の特徴である“銀髪男子”に合致するため捜査に協力し、予定どおり誘拐犯にさらわれた。

 誘拐工作は魔法で隠蔽されているが、その類はあけには効かない。追尾は難なくこなせた。


 一部情報では「うさ耳のほうが誘拐されやすい」との噂があり、翠には魔法でうさ耳を“偽装しておいた”。ただし彼は元々耳なしなので魔法は使えない。

 潜入後は、翠が内部調査でアジトや被害者の状況を洗い、待機する突入班と突入のタイミングを計っている。


 あけは、アジトの向かいの空き地にある使われていない倉庫にいる。捜査拠点として都合が良かった。

 翠が連れ込まれてから、まだ数分。状況は掴み切れない。


 銃器と体術なら、あけより翠の方がはるかに上。――なぜ図書館司書をしているのか疑うほどだが、軍部“最強”と謳われた人物の孫なら納得だ。


 そんなことを考えつつ、再び向かいのビルを見る――あけは息を呑んだ。

 ビルの入口に黒い車が停まり、体格の良い男が降りる。後部座席から銀髪のうさ耳を担ぎ、建物へ入っていった。

 車の周囲がうっすら青く見えるのは、車ごと魔力で“見えなくしている”からだが、あけにはすべて見えている。


 建物に入る一瞬、担がれた銀髪の顔が見えた。

 見覚えのある、今話題のブランド物のパーカー。うさ耳に綺麗な銀の髪、整った顔立ち――この顔を、あけは知っている。


(う、うさ王様じゃないかぁぁぁぁぁーーー?!)


 絶叫しそうになるのを堪え、口を手で塞ぐ。

 直接の面識はない。だが――親友のコウは外交で白ウサ王国にも行く。しかも彼の祖父ギンはうさ王と懇意、ぶっちゃけ“飲み友達”だ。

 ギンがスマホで撮った仲良しショットで、うさ王の顔は覚えている。間違いない。


 ……だが、なぜうさ王が誘拐されている?

 あけは急いでスマホを取り出し、足元の一羽のうさぎを見る。

 オレンジベージュの毛並みにブラウンの瞳のうさぎが、こちらを見上げていた。


「君なら中に入っても怪しまれない。中の様子を見ていてくれるかい?」


 声をかけると、うさぎは頷いてビルへ跳ねていく。

 この国には野良うさぎが溢れており、建物内にも勝手に入り込むが誰も邪険にしない。

 このうさぎはあけに懐き、どこへでもついてくる。言葉が分かるのか、頼みごとも引き受けてくれる“謎のうさぎ”だ。


 うさぎを見送ると、あけはある人物へ連絡を取った――。


── ✦ ── ── ✦ ── ── ✦ ──


 うさ王とギンが北区へ向かった――彗からそう聞き、コウは内心焦っていた。

 今回はお忍びの視察。一般には知られていないのが救いだが、まさかの事態に苛立ちが募る。

 祖父がうさ王を連れ出すなんて……。


 その時、着信。急いで応答する。


「コウ君、今ちょっといい?」


 聞き慣れた声に一瞬安心――だが緊迫を知る相手だけに、表情は険しくなる。


「あけさん、何かあった? 今こっちもマズい状況で……対応し切れるか分からない」


 棘のある口調に、受話器の向こうでため息が落ちる。


「その“マズい状況”って、うさ王様がイケメン誘拐犯に攫われたからじゃないの?」


「?! なっ……誘拐?!」


 コウの脳内で推論が一気に合致する。

 うさ王は祖父と二人で北区へ行っている。うさ王は確実にイケメン。北区の“イケメン誘拐”の犯人が見たら、アジトに連れて行くに違いない。


「今朝から行方不明で捜索中……で、合ってるかな?」


 あけの声に我に返り、コウは深呼吸して答える。


「あぁ。じいちゃんと二人で北区に向かったまでは分かってる。その後が不明だ。あけさん、うさ王様を見たの?」


 この飄々とした男は、確信を得てから動く――聞かずとも分かってはいるが、念のため確認する。


「さっき、アジトのビルに、犯人の一人がうさ王様を担いで入るのを見た。直接の面識はないけど、間違いないと思う」


「確証は?」


 “間違いました”では済まない。


「顔はギンさんのスマホ写真で知っている。着ていたのは先日、翠君と選んだ“一点物”ブランドのパーカー。他に同じ服はない。今回は翠君は別の服装。――そこから推測すると……」


 あけは区切って、組み立てた推理を述べる。


「今朝、うさ王様が部屋を抜け出し、ギンさんと合流。

 変装のため、ギンさんが翠君の服を渡した。

 視察ではほぼ回れない“北区”へ行きたがる確率が高い。

 そして北区で多発する“イケメン誘拐”に目を付けられ、捕まった――私なら、そう考える」


 普段は頼もしい推理が、今は逆に癇に障る。――現場にいなくても、なぜここまで手に取るように分かる……?

 いや、苛立っているだけだ。


「なら、おそらく間違いない。今、彗さんとうさ王様の側近・クロさんが北区にいる。そっちに合流するよう伝える。オレも向かう」


「ギンさんは? うさ王様を探してるはず。勝手に動かれると状況が悪化しかねないから、合流したほうがいい」


 コウの苛立ちが限界を超える。


「今回の件はじいちゃんがやらかした。でも本人の面倒までは見切れない! 最優先はうさ王様の無事の確保だ!」


 声を荒げるコウに、あけは静かな声で返す。


「コウ君。囮捜査で翠君が心配な時に、うさ王様とじいちゃんまで重なれば苛立つのは分かる。けど今は全部が一つに繋がってる。全員が同じ目的で動くなら大丈夫、うまくいく。だから――一人じゃない。焦らず、力を抜いていいんだよ」


 その一言で、コウは我に返った。


――“守らないといけない、全部を一人で”


 そう、思い込んでいた……。

 翠は危険な囮捜査などしてほしくなかった。それでも“捕まっている子達を助けたい”と志願した。

 うさ王は――祖父が連れ出した。自分がもっとしっかりしていれば……そう思っていた。


 どうして、この人は自分を分かってくれるんだろう?


「あけさん……ごめん」


「ふふ……コウ君、心配しすぎて焦る癖は昔から変わらないからね。ギンさんは今、北区の繁華街からこちらへ。多分、うさ王様の気配を魔力で追ってる。こちらの人員が迎えに行く。彗さん達に連絡して、君も合流を。では」


 通話が切れそうになり、コウは慌てて言う。


「あけさん、ありがとう」


「……私、何かしたかな? じゃ、移動はお早めに」


 ぷつり、と通話が切れた。

 コウは苦笑し、彗へ連絡するために再びスマホを握り直した――。



 ――【潜入者】――


 

 連れて来られたのは、多分、今は使われていない廃ビル。

 ただ……廃ビルと言うには床や壁がわりと最近きれいにされている感じで、埃や塵もなく清潔だ。


 自分や他の誘拐されてきた子たちがいる部屋も、物凄く広くて簡素だが、洗面とトイレ、シャワー、人数分のベッドだけはちゃんとある。

 食事も一日三回きちんと用意されていて――


(何かが……おかしい)


 翠はそう思いながら、他の被害者たちの様子を見ていた。

 特徴は自分と同じく銀髪・十代後半の子が三人。自分と違うのは、全員うさ耳だということ。


 翠は生まれつきうさ耳がない“耳なし”だが、今は捜査のために、あけに魔法でうさ耳を生やしてもらっている。

 連れて来られた子たちに共通の接点はなく、お互いに初対面。

 そして全員、情報どおりのイケメンだった。


 いざという時に協力して逃げ出せるよう、三人と話しておいたが、三人とも一般家庭の子で、ここへ連れて来られる時に耳へ制御装置を付けられ、魔法は何も使えないと言う。

 翠もここへ来た時に、うさ耳の付け根にリング状の制御装置を付けられたが、元々魔力はないので問題はなかった。


 一番長くここにいる子は八日前からだという。手錠や足枷といった拘束具はなく、ただこの部屋の中だけで過ごしているらしい。

 一応、脱走防止に結界が張ってあるのか、自分たちはこの部屋から自力では出られない。


(犯人の意図が分からない……)


 情報が少なすぎる。

 そう思っていた時だった。


 足音と共に、黒ずくめのフードとローブを被った男が、また一人イケメンを抱えて入ってきた。

 その足元には、オレンジベージュのうさぎが一緒について来る。

 抱えられているうさ耳には、すでに制御装置が付けられていた。


 男はうさ耳をそっと床に下ろすと、そのまま出て行く。

 ついて来たうさぎは、そのまま室内に残った。


 このうさぎを、翠はよく知っている。

 バディを組んでいるあけに懐いているうさぎで、きっと中の様子を見に行ってと、あけに頼まれたのだろう。


 ――それよりも。


 新たに入ってきたうさ耳を見た瞬間、翠は思わず声を上げそうになり、必死で堪えた。


(買ったばかりの僕の服?!)


 ……いや、問題はそこじゃない。

 それを着ている“中身”の方だ。


 兄や祖父のスマホの写真でも見ているし、ニュースでも顔は見ている。

 働いている図書館で同盟国の新聞記事をファイリングしているから、覚えている。


 間違いなく白ウサ王国の――うさ王様だ。


 (何で僕の一点物のパーカー着てるの?)と服にばかり意識が向くのは、先日あけと買いに行き、あけに買ってもらってからまだ一度も着ていないからだろう。


 翠は、そっとうさ王を揺り起こした。

 一瞬後、うさ王が目を開ける。サファイアのようなきれいな瞳がこちらを見る。


「ここって……」


 困惑しているうさ王に、翠は顔を寄せ、そっと耳打ちした。


「声はお静かに。うさ王様ですね? コウの弟の翠です。今は僕を含め、陛下も誘拐犯に捕まっています」


「……お前、コウの弟か? でも、うさ耳が……」


 翠はゆっくり頷く。


「誘拐犯を追うために、魔法でうさ耳を生やしています。それより……」


 ――(何で僕のパーカー着てるの?)


 とは、さすがに聞けない。


「どうしてこんなところに?」


 うさ王は、朝からの経緯を手短に話してくれた。


「じいちゃん……またやってくれたなぁ……」


 話を聞き終え、頭を抱える翠に、うさ王は首を振る。


「いや、以前から“うさ瓶ランドを案内してほしい”と言っていたのはオレだ。じいちゃんは悪くない」


「うさ王様……」


(あぁ……この人は……こういう性格だから、国が栄えるんだろうな)


 そう思うと、親近感が湧いた。


「今は王とは名乗れない。翠も“うさお”でいい」


(もっと他に良いネーミングはなかったの?)


 そうは思うが、自分の祖父が付けたのなら何も言えない。

 翠は苦笑し、頷いた。


「じゃあ、“うさお兄さん”で」


「うさお兄さん?」


 不思議そうに見返すうさ王に、翠は屈託なく笑顔を向ける。


「兄の友達なら、僕の兄みたいなものでしょう? だから“うさお兄さん”」


 うさ王も頷いた。青い瞳がきらきらしている。


「弟ができたな」


「必ず助けます。兄も動いているでしょうし……僕の相方のあけさんも見ています」


 部屋の片隅でこちらの様子をうかがうオレンジベージュのうさぎに視線を向けると、うさぎもこちらを見ていた――。


── ✦ ── ── ✦ ── ── ✦ ──


 どれくらい時間が経ったのか。時計がないから分からない。

 部屋にいたオレンジベージュのうさぎは、いつの間にかいなくなっていた。


 足音が近づいてくる。

 翠は、うさ王の前へと座る位置を移し、そのまま様子をうかがった。


 ガチャリとドアが開き、黒いフードの男が二人入って来る。

 一人は体格が良さそうで、その後ろは少し細身の男だ。


 室内に入るなり、自分たちを見回し――


「よし、お前。一緒に来い」


 男が手を伸ばしたのは……うさ王だった。

 その手を、咄嗟に翠が掴み返す。


「邪魔をするな。用があるのはお前ではない」


 男に睨み返し、翠は言い切った。


「兄さんを連れて行かないで。連れて行くなら、僕が行く」


 男は一瞬驚いたように手を引く。


「お前たち……兄弟なのか?」


 交互に翠と、うさ王を見る。


「兄は、僕が生まれる前に亡くなった父に似ています。僕は昨年亡くなった母に似ているから、兄弟だと言わなければ気付かれないこともあるけど……」


 そこで一旦、言い淀む。相手がどう出るか――。

 うさ王だけを連れて行かれるわけにはいかなかった。


「うさ次郎……お前……」


「に、兄さんは僕の唯一の家族だから……」


 (何かあった時は自分に合わせる)と、うさ王と決めていたからか、うさ王は翠を呼びながらこちらを見る。が――


(“うさ次郎”って何ーーー?!)


 ネーミングセンスに笑いそうになるのを必死で堪え、ぎゅっと口をつぐんで肩を震わせる翠。

 それが功を奏したのか、後ろの細身の男がため息をついた。


「離すわけにもいかなそうですね……。こういう身の上なら、あの方もお許しになるでしょう。二人連れて行きましょう」


「いいんですか?」


「どちらもイケメンですからね……お喜びになるでしょう」


 その言葉に、翠はひとまず安堵する。

 これで離れずに済む――守れる。


「じゃあ、お前たち。二人とも来てもらおうか」


 再び男がうさ王を掴もうとするのを、翠が遮る。


「兄さんに触らないでよ」


「なっ、この……!」


 男は乱暴はしないが、翠の態度が気に入らないのか声を荒げた。


「うさ次郎、兄ちゃんは大丈夫だから。二人一緒らしいし、離れないだけ良いだろ?」


 見かねたうさ王が、翠と男の間に割って入る。

 こちらを見てくるうさ王の表情は、少し生意気そうな“兄”の顔だった。

 本来なら守られる立場だが、状況的に引いた方が良さそうだ。


「兄さんが大丈夫って言うなら……」


 翠がそう返すと、うさ王はにかっと笑い、翠の頭をわしゃわしゃ撫でた。


「よし、いい子いい子」


「……兄さん、やめてよね」


 どこまでが本気で、どこまでが演技なのか――この王を見ていると分からなくなる。

 だが、翠にとってもどこか懐かしい感覚だった。


「ほら、お前たち。早く出ろ」


 さっきまで翠の態度に苛立っていた男も、どこか棘が抜けたような声音で促す。

 もう無理やり掴んではこなかった。


 部屋を出る瞬間、翠は後ろの子たちを見る。

 みんな、僅かに頷いてくれた。

 ――助けが来るまで、何があっても待っていてほしい。そう伝えたことへの、確かな返事だった。



――【いざ、突入!!】――


 

 ノートPCを眺めながら、あけは映像から建物の内部構造と部屋の間取りを手早く作成していた。

 先ほどビル内に入ってもらったうさぎが順に回っているおかげで、間取りが詳しく分かる。

 うさぎの首に気付かれないよう付けてあるカメラが役に立ってくれた。


 ビルは四階建てで出入り口は一か所のみ。

 誘拐されてきた子たちがいるのは一階の奥で、犯人は最上階にいると思われる。


 見取り図ができ上がる頃、他のメンバーが集まってきた。


「――あけ、状況は?」


 入って来るなり彗が手元の見取り図をのぞく。

 その後から、うさ王の側近・クロが入ってきた。


「うさ王様の状況はどうなんでしょう?」


「あけ君、陛下と拐われた子たちは?」


 ほぼ同時にギンが血相を変えて駆け込む。


「じいちゃん、まずはクロさんに謝って?」


 コウがその場に音もなく現れた。


瞬間移動の魔法が唯一使えるのがコウだが、移動は自分一人分のみで、一度使うと一週間は魔法全般が使えなくなるのが欠点だ。


 コウの言葉に、ギンはクロへ深々と頭を下げる。


「勝手なことをしてしまって、申し訳ないとしか言えず……しかも、まさか誘拐事件に巻き込まれるとは思っておらず……」


 そう言うギンに、クロは困ったような表情を見せた。


「我が王も、今まで何度となくギン殿に“うさ瓶ランドを案内してほしい”と言っていましたし……公務中に抜け出すのは王の常日頃のことです。今回の誘拐事件は例外ですが……これで少しは我が王も大人しくしてくれれば……良いのですが……」


 穏便に済まそうとしてくれるこの側近に借りができたと、ギンとコウは密かに思いながら、もう一度頭を下げた。


「謝るのはその辺で。どうやら、うさ王様と翠君が最上階へ連れて行かれているみたいです」


 うさぎの首に密かに付けているカメラには、うさ王と翠が移動し、四階の一番奥の部屋へ案内されていく様子が映っている。


「今回の誘拐事件の指揮権は私にあります。今から役割を伝えます。見取り図は各自暗記で。コウ君は他の被害者の確保と保護、彗君は建物内の誘拐犯の制圧、クロさんは――」


 そこでいったん言葉を切り、あけはクロを見る。

 ここで待機を求めても多分無理だろう――その確認のための“間”だった。

 クロは黙って静かに頷く。


「では、クロさんは正面突破でそのまま四階へ。うさ王様の保護を」


 あえて“犯人確保”と“翠君の保護”を口にしないあけに、クロが静かに応じた。


「あなたの相方もいるのでしょう? 我が主を守ってくれているはずですし、共に保護します。それに、犯人も捕まえないとまた被害者が出てしまう」


 その言葉に、あけはほっとしたように破顔する。

 本来なら自国の事件に、他国の――しかも国王と側近を――巻き込むなど、知られれば国の存亡に関わる。こちらから頼めることではない。


「そう言っていただけるとありがたい……では、お願いします。私は万が一、誘拐犯が逃げたり魔力を行使しても逃さないよう防御を張り、逃げてきた輩を捕獲するために待機します。では――」


 話を締めようとしたところで、ギンが慌てて口を開いた。


「あけ君、ワシは何をしたら良いんじゃ?」


「え、ギンさん……」


 あけが固まる。


(まさかこの爺さん、作戦に加わる気……?!)


「ギンさん、参戦するつもりです?」


 恐る恐る問うと、ギンは頷いた。


「陛下が誘拐されたのは、ワシがトイレへ行っている隙に起こったからな。責任は自分で取る」


 ――トイレかよ、とは思ったものの、一国の王をトイレまで連れ回すわけにもいかない。

 そもそも部屋から連れ出さなければ騒ぎにはならなかったのだから、ギンとしても責任は取りたいだろう。

 退役したとはいえ“過去最強”と謳われた経歴だけに、あけは渋々頷いた。


「では、ギンさんにはクロさんと一緒に――」「ワシは屋上から行こうかのう」


 あけとギンの声が重なる。

 一瞬の間のあと、あけが見取り図に目を落とす。


「屋上へ上がるには、建物内の階段でしか行けませんよ?」


 そう言うと、今度はギンが一瞬固まり、ニヤリと笑った。


「あけ君、この高さなら、垂直跳びで上がったところからまた跳べば三回くらいで屋上じゃ。あとはワイヤーとアンカーとワイヤーストッパーさえ借りていけば充分」


 その場にいる全員が、ふたたび固まる。


「……じゃあ、ギンさんは屋上からで」


 あけがどうにか返し、場の空気を戻す。

 気を取り直して皆を見回した。


「私が防御陣を張った瞬間が各自スタートの合図です。皆さん、健闘を祈ります。各自準備、散開!!」


 そうして、それぞれが行動を開始した――。



――【突入!!】――



 翠と共に連れて来られたのは、建物の四階だった。

 ここは窓が多いのか、陽の光がよく入り、今までいたフロアより明るい。


 最初に通されたのは小さな小部屋。

 二人がけのソファとミニテーブルだけだが、壁紙のデザインや色合いは上品で質が良い。

 部屋の壁に、自分と同じ年頃のうさ耳の少年の小さな写真があるのを、翠は見逃さなかった。


(病室、だろうか?)


 明るい窓辺の写真だが、普通の室内とは様子が違う。

 ほかに、この室内に目を引くものはない。


 しばらく座って待たされていたが、体格の良い男が見張りで立っているので、翠とは何も話せないままだ。


 一日自由に過ごしたいだけだったのが、思いがけない展開になってしまった。

 きっと、じいちゃんも今頃は心配しているかもしれない。


(じいちゃん、か……)


 自分にも祖父はいた。だが、よく知らない。

 一国を背負う自分にとって家族の温かみを知る時間は、クロと過ごすひと時しかなかった。


 横に座る少年を見ると、どことなくコウに似ている。

 うさ耳がなくても、この国はみんな仲良くしていて……今回視察を抜け出したのは、そういう光景が見たかったからでもあった。


「おい、場所を移動するぞ」


 声をかけられ、我に返ると、翠が心配そうにこちらを見ていた。

 翠の瞳のあたりが、どことなくギンに似ている。


「兄さん?」


「大丈夫だ。兄ちゃんがついてるぞ」


 どっちが守られる立場なのか……。

 兄ならば、弟を守らなければいけない。

 クロも――妹を守っている。

 コウも――弟を守っている。

 普段は国を守る立場だが、今日は翠の兄として、どうにかこの場を切り抜けたい。


 そうした思いが頭をよぎる。

 黙ってついて行くと、一番奥の部屋の前まで来た。


 案内してきた体格の良い男がフードを下ろす。

 フードから、見事な銀髪が流れ落ちる。顔もそこそこイケメンだ。


 男はドアをノックし、中からの返事を待った。


「お入り」


 声と同時に、男はドアを開けて二人の後ろへ回る。


「さあ、中へ入れ」


 二人の背中を押して室内に入れると、自分は入らずにドアを閉めた。

 うさ王と翠は顔を見合わせ、頷き合って部屋の奥へ進む――。


 上品な設えの調度品、柔らかな絨毯。

 窓にかかるのは上質なカーテン。

 外観の廃ビルとは違う内装に、一瞬驚く。


 ソファとテーブルを挟んだその先に――

 品の良い、ぴったりしたスーツを着こなした一人の紳士が、笑みを湛えてこちらを向いていた。


── ✦ ── ── ✦ ── ── ✦ ──


 あけは長めのスーツケースから一本の長剣を取り出すと、真っ直ぐ地面へ突き立てた。

 柄を握る手に力を込める。


 その瞬間――

 ビルを取り囲む形で音もなく、薄い陽炎のような淡い光が立ちのぼる。


 それを合図に、ビル唯一の出入り口であるドアへコウ・彗・クロの三人が走り寄った。

 ドアには鍵がかかっているが、彗が髪に挿しているヘアピンで、あっさりとピッキングして開けてしまう。

 コウが静かにドアを開け、彗を先頭に三人は中へ入っていった。


(この三人なら心配はいらない。問題は――)


 魔力の制御装置を兼ねている長剣から手を離さず、あけが横の外壁を見て――固まる。


 行動開始したばかりだというのに――

 ギンがすでに二階と三階の中間部分の外壁にいた。


 古いビルの外壁にわずかに出っ張った部分へ足先をかけただけの状態から、そのまま垂直に跳んで四階屋上の鉄柵をつかむ。

 そこから懸垂の要領で、あっさりと上がってしまった。


(コウ君ですら一足飛びで上がれるのは一階の屋根の高さまでなのに……このじいちゃん、七十過ぎても現役でいけるんじゃないの??)


 そう思ってしまうほど、身軽な動きだった――。


 ビルの中は、薄暗い廊下が奥まで続き、入ってすぐのところに上へ続く階段がある。

 ところどころにLEDの蛍光管があり、うっすらと照らしている。


 彗は静かに様子をうかがいながら、コウに小声で告げた。


「一階奥に誘拐されてきた子たちの部屋がある。まずはそこから――」


 コウが頷く。


「クロさんはこのまま四階へ。陛下と翠をお願いします」


 コウのルビーのような紅い瞳が、凜と輝く。

 クロは静かに頷いた。


「敵は締め上げつつ、そのまま上階へ進みます。お二人もお気を付けて」


 そう言って身を翻すと、階段を音もなく駆け上がっていく。

 それを見送り、彗とコウも奥へと進んだ――。


 ギンは音もなく四階の屋上へ上がると、辺りを見回した。

 誰もいない。まあ、当然だ。

 こんな場所から侵入者が来るとは思うまい。


 見取り図から考えて、うさ王と翠がいるのは階段から一番遠い奥の部屋だろう。

 自分の位置と頭の中の見取り図を合わせながら、屋上の出入り口とは反対側の隅へ静かに移動する。


 そこで下をのぞくと、ちょうど四階の窓の位置。

 鉄柵が弱っていないかを確かめ――


 ギンは、持ってきたワイヤーとストッパーを手早く柵にセットした。

 高層ビルではないが、四階の高さはかなりのもの。落ちればただでは済まない。

 それでも気にせず、ワイヤーを握って柵を越え、するすると降りていく。


 安全ベルトはない。

 革手袋にワイヤーが食い込み、軋む音がかすかに鳴る。

 脇に配管の設置金具が少しあるので、そこに足先だけ引っ掛け、あとはワイヤーを手に持ってバランスを取る。


 本人の腕だけでこれをこなすのはかなりのものだが、ギンはあっさり四階の窓の横まで降りると、耳に意識を集中させた。

 ほんのりとうさ耳が熱を帯び、白いうさ耳が淡いピンクに染まっていく。


 ――すると。

 室内の声が、弱く拾えた。

 ボソボソとしていて何を言っているかまでは分からないが、若い声が二つと、やや低い声が一つ――そこまでは判別できる。


(ここにいるのは間違いなさそうだな……)


 そのまま、ギンは中の状況を伺い続けた。



 ――【理由……】――


 

 窓辺に立っていた紳士風の男が、ゆっくりとこちらへ向き直った。


 品の良い顔立ちで、シニア手前といったところだろう。ややシルバーの混じる黒髪を後ろへ撫で付け、ブルーグレーの瞳をしている。

 着ているのは上質なスーツ。仕立ても良い。室内の調度品からしても、悪趣味ではなさそうだ。


 男は、うさ王と翠を交互に見て口元に笑みを浮かべた。どことなく――嬉しそうな微笑だ。


 うさ王を少し庇う位置で男を観察していると、男は手前のソファを示した。仕草は優雅で、品がある。


「立っていないで、二人ともお座り。……紅茶は好きかな?」


 そう言いながら、窓を背にこちらとは反対側、テーブルを挟んだ一人掛けのソファへ歩み寄り、腰を下ろす。


 立っていても仕方がないので、翠はうさ王の顔を見た。

 うさ王は僅かに頷き、静かな足取りでソファへ座って翠を促す。翠も大人しく隣へ腰を下ろした。


「緊張しているのも無理はない。……けれど、この部屋ではゆっくり寛いでほしい」


 そう言っているうちにドアがノックされ、静かに開く。上品なうさ耳のメイドが紅茶やケーキを運んできた。

 優雅な所作で紅茶をそれぞれの前に置き、ケーキやスイーツをテーブルに並べると、そのまま部屋を出て行った。


 翠はひとしきりそれを見てから、男へ顔を向ける。警戒の色を隠さない。


「何の真似ですか? 誘拐しておいて“もてなす”って……何を企んでいるんです?」


 率直に聞くことで答えが得られるときもある。逆に怒りを買う場合もあるが――


 閉じ込められていた部屋は質素ながら必要な物は揃っていたこと。

 うさ耳の特徴である魔法は封じているものの、手錠や足枷などの拘束具はされていないこと。

 従わずに反抗しても暴力は振るわれなかったこと。


 ――こうした点から、この男は乱暴なタイプではなさそうだと、翠は踏んでいた。


 翠の言葉に、男は少し困ったような表情を浮かべる。悲しげとも寂しげとも言える……何とも言えない顔だ。


「そうだね。いきなり連れてこられて、紅茶を振る舞われても普通は警戒する。君の名前は?」


 問われ、思わず本名を出しかけた翠は踏みとどまった。わざと少し考え込む素振りを見せ、静かに答える。


「うさ次郎です……。隣にいるのは、兄のうさお……」


 “名乗りたくなさそう”な雰囲気が顔に出てしまう。だが、それが功を奏したのか、男は静かに目を細めて笑った。


「兄弟か……。あの子にも兄弟がいたらね……」


 その一言を逃さず、今度はうさ王が聞き返す。


「『あの子』?……子どもがいるのか?」


 男はゆっくり頷いた。


「君たちと同じ年くらいの……息子がね。――さあ、冷めないうちに召し上がれ。と言っても信用してくれないだろうから、私が先にいただこう。同じものを口にすれば安心するだろう?」


 そうして男は自分のティーカップの持ち手に指を絡め、上品な仕草で紅茶を一口飲んだ。

 数分待ってみるが……変化はない。


 それでも念には念を入れて飲食は避けたい――そう思った瞬間、いきなりうさ王がティーカップを掴み、紅茶を飲み始めた。


 翠は思わず腰を浮かしかけるが、うさ王は視線だけで制した。


「紅茶は同じティーポットから注いでいる。俺たちのカップの方に細工している可能性もあるが……カップの中にも変な香りはしない。無味無臭の薬物の可能性もあるが、大丈夫だろう」


 男が嬉しそうな表情を浮かべる。


「疑り深いことは良いことだけど、実際に何も細工はしていないから安心していいよ」


 それを受け、今まで室内を観察していた翠が改めて口を開いた。


「じゃあ――なぜ“誘拐”を? しかも、同じ髪色、うさ耳、十代後半くらいの男子……。僕たちと同じくらいの息子さんがいるのに。あなた、もしかして……」


 いったん言葉を切る。

 室内には、男の“息子と思しき”少年の写真がいくつも飾られていた。細身で優しそうな笑顔。どことなく男に似ている。銀髪に、青と緑の中間くらいの瞳を持つうさ耳の少年――

 そして、そのすべてがベッドの上で撮られていた。


 笑顔ではあるが、パジャマに上着やガウンを羽織っている写真ばかり。

 窓から差し込む光が、その少年を儚げに映しているようにも見える――。


「息子さん、亡くなられた……んですね? だから似た子をさらっている。違いますか?」


 翠は静かに言った。


「うさ次郎君。君は観察と推測が得意なようだね」


 男はそう言うとソファから立ち上がり、一番近い写真立てを取り上げ、愛おしそうに眺めた。


「息子は、私の妻の忘れ形見でね……。生まれてから病弱で、今の医療技術をもってしても長くはないと言われ……それでも本人はいろんなことに興味を持って、『やってみたい』ということは何でも一緒にやった。けど……」


 そっと写真立てを棚に戻す。


「年齢が進むにつれて弱っていって、亡くなってしまった……。あの子だけが生きがいで、あの子と一緒に毎日を過ごすことが楽しみだった。

 あの子を亡くしてから……寂しさを埋めるものがなくなり……同じ年の子を見ていると、あの子を思い出す……」


「だから、似た子どもをさらって、代わりにしようと?」


 うさ王が静かに男を見つめる。


「あの子の代わりにお茶を楽しんだり、流行りの話をしたり……そうして寂しさを埋めたかったんだ。けど、連れてきた子たちは怯えて話もしてくれない……」


――いや、それはそうだろう?! それって、ただの変なオヤジじゃん?!


 うさ王と翠は同時にそう思ったが、口には出さなかった。


「息子の代わりに同じくらいの子と仲良くしたかったら、誘拐なんてしたら余計に怪しまれるだろう?」


 控えめにうさ王が切り出すと、男はしょんぼりと項垂れた。


「それはそうなんだ……。だが、街角で見かけた少年に『うちでお茶でもしないかい?』って声をかけると、みんな逃げていくんだよ……」


「俺でも逃げるぞ?」


「うさお兄さん、それ言っちゃ……可哀想だから……」


 二人の言葉に、男がますます萎縮していくのが分かる。


「遊びに来てくれないなら、さらってきたら一緒にお茶してくれたり話ができるかな? と思ったけど、怖がられてうまくいかず……。君たちだけなんだ! ちゃんと会話してくれたの!!」


 言った直後、男はうるうると泣きそうな顔になる。


『………………………………だよね』


 二人の声が重なった、その時――


 ――ドガァーン!!

 ――バリィーン!!


 という、けたたましい音が正面と背後から響いた!


 うさ王が後ろを、翠が前を見る。


 後ろからは、


「ご無事ですか?!」


 という凜とした声。低いが耳に心地よい声だ。

 重厚なドアを蹴破って、黒い人影が室内に飛び込む。黒髪の少しツンツンしたショートヘアに、きれいな青い瞳。切れ長で鋭い眼差しの青年だった。


「クロ!!」


 うさ王が驚きと嬉しさの混じった表情を浮かべる。


「うさお――……うさお様、下がってください! そいつが犯人ですね?!」


 そして前からは――

 ワイヤー一本で厚い窓ガラスを蹴破って、一人の老人が入ってくる。


「じいちゃん?!」


 翠が驚きの声を上げた。

 シャツにスラックスという場違いな身なりで、うさ耳の老人が窓辺に立つ。


「ワシの孫たちを返してもらおうか?」


 あまりの突然のことに、首謀者の男はクロとギンを交互に見て――その場にへたり込んでしまった。



――【一日の終わり】――



 うさ王とクロの二人を滞在先のホテルへこっそり送り届けると、コウはその足で自宅へ戻り、深くため息を吐いた。


 なんとか政府要人たちには知られずに事が済んだとはいえ、一歩間違えば国同士の問題になりかねない。

 無事にうさ王を奪還・保護できたが、原因は自分の身内だ。

 うさ王自ら「自分が遊びに外へ出たかったから」と言ってくれなければ、今もなお気持ちは落ち着かなかっただろう。


 当の祖父本人は今ごろ、ばあちゃんにこっぴどく叱られているはずだ。


 きつく結んでいたネクタイを解くと、夜風に当たりたくなって庭へ出る。

 すると、庭のベンチに翠が一人で座っていた。


 すっかり夜になり、あたりは暗い。銀髪が風に揺れ、頭上のうさ耳がぴょこぴょこと動く。


「あれ? うさ耳、あけさんに消してもらわなかったの?」


 そう言いながら、コウは翠の隣に腰を下ろす。


 翠はどことなく不満そうに兄を見上げた。


「あけさん、防御張ったり事件の事後処理で魔力使っちゃったから、今夜はうさ耳外せないって……」


 ぷうっと頬を膨らませる翠に、コウは弟の頭をわしわし撫でた。撫でるたび、うさ耳が揺れる。


「いいじゃん、たまには“うさ耳が生えてる気分”を味わえるよ」


「それは構わないんだけどさ……」


 まだ不満げな翠の顔を、コウは見返す。


「まだ何か不満でもある? 兄ちゃんが聞いてあげよう」


 笑いながら言うコウを、翠は上目遣いで睨んだ。


「僕の“買ったばかりの”パーカー、うさ王様がすっかり気に入ったからあげたんだ……。でも、あれちょっと惜しかったから……」


 弟がまだ子どもっぽいと思いつつ、コウは僅かに苦笑する。


「今度、新しいの買ってあげるよ」


「要らない」


「え?! なんで?」


 秒で返ってきた返事に驚くと、翠は満面の笑みで答えた。


「あけさんがまた新しいの買ってくれるって♪」


「はいはい、良かったね。翠は兄ちゃんよりも、あけさんに懐いてるもんね」


 取ってつけたようなコウの返事に、二人で笑い合う。


 ひとしきり笑うと、翠は真面目な表情になった。


「あのさぁ……」


「何?」


「あの誘拐犯……どうなるの?」


「……誘拐・拉致・監禁はかなり罪は重い。けど、そうさせる理由も分からなくはない。息子さんを亡くして精神的ショックも大きいだろうし、情状酌量の余地はあると思う。多分、息子さんを失った喪失感からのものだしメンタル医療の方も治療が入ると思うよ」


 そこまで言うと、コウは夜空を仰ぎ見た。


 ――全員で行動を開始したあの後。

 コウは彗と共に、他の被害者がいる部屋へ入り保護に当たった。

 彗は建物内にいた共犯者を捕らえ、クロは出会った者を倒しつつ、うさ王の元へ。


 今回の被害は、さらわれた子たちが怖い思いをしている。犯人には何らかの処罰を――という治安維持庁の意向が既に出ている。


「でも、どうなるんだろうね。理由はどうあれ、やったことに対しては償って反省してもらわないと。捜査協力とはいえ……翠も怖かったろうし」


「怖くはなかったよ。あけさんが付いててくれるって分かってたし。それに、うさ王様もいたから。思ったんだけど……あの誘拐犯、息子さんと似てる子を養子にもらって、普通に生活してたら良かったんじゃないのかな……」


 翠の一言に、コウが目を丸くする。


「……思いつかなかったんじゃないかな」


「……かもね」


 そうして兄弟二人はしばらくの間、庭で星を眺めていた。

 夜風が心地よく、うさ耳を撫でていく――。


── ✦ ── ── ✦ ── ── ✦ ──


「勘弁してください。他国へ来てまで脱走されては困りますから……」


 ホテルの一室。

 疲れてベッドでうとうとしているうさ王へ、クロはそう声をかけた。

 今回の当事者であるうさ王は、もう半分夢の中だ。


「分かった分かった……おとなしく、するから………」


 そう言いながら眠ってしまう。


 クロは大きくため息を吐くと、ベッドへ歩み寄り、うさ王の傍らに立って顔を覗き込んだ。楽しそうな表情で眠っている。

 そっと肩まで毛布をかけた時、不意にうさ王が小さな声で囁いた。


「みんな……全員、家族だ……」


 その囁きを聞いた途端、クロはいつもの凜とした鋭い表情を緩めた。

 そして灯りを消し、部屋を後にする――。


 長かった一日が、やっと終わりを告げようとしている。

 


――END――

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