悠久なる旅路の果て
@Karasu72noko
第1話
魔力、それはこの世界にいつ頃からか存在する不思議な力。この力を自在に操り世界の法則に介入し改変する者を魔導士と呼ぶ。魔導士の登場により科学は大幅に進歩した。しかし人は大きな過ちを犯した。魔導士を道具扱いし過ぎた結果、魔導士と一般人の大規模な戦争に発展した。この戦いで多くの人々が命を落とし後の世にも暗い影を落とし、外道魔導士の組織が台頭した。そしてそれに対抗する為に魔導士を管理する魔導省が出来、魔導士の卵を教え導く魔導学園が設立された。最低最悪の魔導大戦を繰り返さぬ為に。
そんな資料を俺は国立魔導図書館で眺めていた。この魔導大戦の資料は職場で何度も何度も読んだ。故に読み飽きているが他に読む本も無いので待ち人が来るまで読んでいた。
「ごめんお待たせ」
暫くすると銀髪のショートカットの女性に声をかけられた。
「別に待ってないよ」
俺は素っ気なく返事をすると読んでいた本を本棚に戻して女性のもとに向かった。彼女は三ツ谷智、国立魔術大学の研究者だ。
「久しぶりだね智ちゃん。元気してた」
「うん、正直かなり疲れてる〜だって私の研究室にまで魔導省のお偉方が来るからさー。それよりも悠君の方はどう」
「うん、ここ最近は書類仕事ばっかりやらせてもらえてるから結構、楽かな」
そう言いながら自身の魔導車に乗り込む。魔導車は魔導士の持つ車で魔力を流すことで動く。その為エコであり運転する必要はない。俺は智を魔導車に乗せると自分も乗り込み魔力を流す。するとエンジンがかかり動き出した。
「行き先は例の孤児院?」
「佐々木児童救護院ね〜悪いねせっかくの休みなのに」
「今更気にしてないよ。どうせ1人でいたら腐ってるよ部屋で」
そう言いながら魔導車は都内の一角にある佐々木児童救護院に向かった。車で30分くらいのところに孤児院はあり近くには小学校もある。
智が車から降り孤児院のブザーを鳴らす。暫くすると孤児院から金髪のポニーテールの女性が出てきた。
「智ちゃんいらっしゃい〜それにそっちの彼が悠君かな?まぁ入って〜」
「お邪魔します芹香さん。これお土産です」
悠は大きな紙袋を渡す。中身は本だ。
「ありがとうございます。今、お茶入れますので応接室でお待ち下さいね」
そう言って芹香さんは奥の厨房の方に入って行った。そして悠と智は応接室で待機しているとティーカップを持って芹香が現れた。
「それにしても急に此処に来るなんてどうしたんですか悠さんは」
「単なる自己満足です。自分がした仕事で助けられた子供達がいる。そう思いたいだけですよ」
「随分と大変なお仕事をしてらっしゃるんですね。魔導省の方は」
キャー
そんな話をしながら紅茶を飲んでいると奥の方から悲鳴が聞こえた。
俺は咄嗟に魔術を発動出来る状態で子供達のいる方へと走り出した。子供達のいた部屋には鉄で出来た騎士の様な物がおり子供達を襲っていた。
「なんでナイトゴーレムがこんなとこにいやがる、ふざけんなよ。」
《知の天秤は・右舷に傾け》
速攻で身体強化魔術のグラビティブーストを発動してナイトゴーレムに殴りかかるも盾で防がれる。
「刺し穿て」
直後に先程発動の準備をしていたサンダーピアスを発動してナイトゴーレムの頭部を撃ち抜く。するとガラガラと音を立ててゴーレムは崩壊した。その直後に智と芹香が部屋に入ってきた。
「どうしたんですか?これ」
「よく分からないんですがコイツが子供達を襲っていたので速攻で破壊したんです。それと芹香さんは子供達のケアをお願いします。智は悪いけどコイツの解析を頼む。俺は魔導省に連絡する」
そう言って俺は1度魔導車に戻ってある人物に連絡を入れた。
「兄弟〜今都合いいか」
『全然良くないよ。バカ兄貴の上司と会議中だから切るぞ』
「辰巳、隊長そこにいるのか?なら都合が物凄く良い」
『なんか要領得ないな、用件はなんだ?はぁ孤児院にナイトゴーレムの襲撃だと?ふざけてんのか。んで下手人は?』
「下手人はまだハッキリとしてないが恐らくナイトゴーレムの作り方からしてバベルだろうな。グラビティブーストの直撃で傷一つ付かない上に遠隔操作が可能なナイトゴーレムを扱えるのはあそこしかいねーだろうよ」
『悪い、隊長殿に変わるよ』
『休暇中に巻き込まれるなんて運悪いなお前。ついでに言うと今お前のいるエリアの小学校で立て籠り事件発生中でな。その対処で今MSTは其方に動員出来ない。更に八咫烏も無理だ。』
「悪いんですけどその小学校、目の前なんですよね。で、提案です。作戦会議をリモートで開きたいので八咫烏の本部と繋げて貰えます?」
『わかった。お前の知恵貸せ。』
そう言って1度通信が切れ再度かかって来るまでの間に智が解析結果を簡潔に説明してくれた。
『あー繋がってます悠先輩。隊長も繋がってます?』
「繋がってるよ。誠」
『こっちも大丈夫だ。始めろ』
「先ず今回の孤児院襲撃事件の下手人はバベル。それでそのまま小学校の立て籠り事件もバベルと仮定して話を進める」
『随分と断定するな悠。何か根拠は』
『其方は僕から説明します。ここ最近のバベルは人体実験に力を入れています。故に多くのサンプルが欲しいと思われ小学校に立て籠もったかと思われます。小学校にはかなり広域にしかも高等な結界が張られています。更に孤児院の襲撃もサンプルを増やそうとした結果かと』
『分かった、直ぐにNo.11とNo.17を派遣する。MSTは孤児院の警護にあたらせよう』
「いやそんなに待ってる時間ないです。恐らく結界は簡単には解除不可能かと思われますし結界の割符というか使い捨ての入場券みたいな物が手元にあるんで自分が行きます。」
『装備も整ってないのに危険過ぎます。先輩ここはもう少し待っていてください。今、正義さんと伊黒さんが装備を整えてますから』
「ふざけんなよ待ってられるか。いいかアイツらなら人体実験術式をその場で起動することなんて非常識なことを平気でやるクズなんだよ。それに術式が初期ならまだ救えるかもしれなくても時間が経てば救えなくなる。そんな事は絶対に嫌だね。それに俺だって八咫烏だ。バベルのポータルやインナー程度が相手なら大丈夫だ、無力化出来る。だから行かせてください隊長」
『分かった、愚者より死神に命ずる。これより死神は小学校の中に潜入し人質の救出を最優先に当たれ。後に正義と星も合流する。また敵対勢力の無力化についても死神に一任する』
『先輩、ご武運を』
そうそれぞれが言って通信が切れた。
「智、孤児院を頼むわ、俺は小学校に突っ込む。どうも外道魔導士が動いているらしい」
「大丈夫?悠君はだって」
「心配しないで、絶対に生きて戻るよ」
俺はそう言ってトランクからクワトロレジストが付与された黒い魔導省のローブを羽織った。ローブには紋章として金色の八咫烏が刺繍されていた。そして先程、破壊したゴーレムのコアをローブのポケットに入れて走って小学校に向かった。幸いにも門の前には敵影はなくあっさりと門の前に到達した。そして結界を確認した。
「空間歪曲の結界に更に鍵付きの結界か、これを使って入れば恐らく出る事は黒幕を潰す迄は不可能だな。それでも」
俺は結界の解呪に取り掛かる。
「歪んだ世界の理は此処に正されるべし」
空間歪曲の結界を解除して更にさっきーレムのコアを翳して結界内に侵入した。直後に結界が修復されるのが分かった。校門前から玄関迄は敵影は無く、あっさりと校内に入れた。一階は全くと言っていい程、人の気配がしなかった為階段を登ろうとしたところで何処からともなく無数のナイフが飛んできた。
「風霊よ」
悠は回避行動をとりながらもブラストブロウを発動してナイフを突風で地面に叩き落とす。
「今のを避けられるとは、此処にネズミが潜り込んだから何者かと思えばネズミではなく烏だったとはな」
「黙ってろ外道魔導士と話なんてしたくないんだよ。バベルのポータルが」
「ほう、俺の位階を簡単に当てるとは流石は八咫烏。じゃあ死ねよ」
外道魔導士の男がナイフを取り出した。
「雷刀」
悠は右手に嵌めていた手袋を放り投げて魔術、ライトニングナイフを展開した。そして直後に外道魔導士のナイフと悠の右手が激突した。直後に外道魔導士はもう一本の腕で魔術式を起動した為、悠は速攻で後ろに跳躍して回避する。そして直前まで悠が立っていた場所には大きな穴が開いていた。
「チッ外したか。やっぱりまだ早かったかな」
外道魔導士は舌打ちをした後に何かぶつぶつと言いながらナイフでラッシュを仕掛けてきた。それを悠は魔術、ライトニングナイフを発動させながら躱しいなし弾き続ける。しかし外道魔導士の男のナイフのスピードは徐々に上がりやがて回避出来ず右の頬を切り裂いた。そして悠は膝をついた。
「やっと効いてきたきたようだな。俺の魔導機の能力が」
「魔力が減るのが随分と早いと思ったらその魔導機のせいだった訳だ」
「そうだ。この魔導機は吸魔の怪刃って言う魔導機でな。相手に直接切りつければ相手の体力を魔術に触れればその魔力を喰うんだよ。そしてコイツの威力が上がる」
「面倒な魔導機だな」
悠はそう呟いて立ち上がると再びライトニングナイフを発動して構えて切り掛かるが回避されて即座に反撃に転じられ、防戦一方になる。元々、余り魔力の燃費が良くないライトニングナイフを常時発動している上に相手の魔導機によって魔力を奪われかなり不利な状況だった。回避しても何回かに一回は頬や腕を切りつけられそれによって体力を奪われてを繰り返していた。
(ヤバいな。ライトニングナイフの展開は後2分が限界だ。で俺の体力ももう限界ってレベルだ。そろそろ覚悟決めるか)
「もう限界だろうお前も。ここまで良く粘ったそれは褒めてやる。そこでだ苦しまぬよう一瞬で死なせてやる」
そう言って男はナイフでの高速での攻撃を開始しようとした。
「雷虎よ」
その直後に悠は魔術、サンダーピアスを連続で起動した。そしてそれによって男はナイフで防御をするがそれが隙になりに悠は一気に間合いを詰めてライトニングナイフを再起動させた。直後、悠のライトニングナイフは男の心臓を的確に突き刺していた。
「流石は八咫烏だ、だがもう諦めろ。今のお前の魔力と体力では俺の仲間には勝てない」
そう言い残すと男は血を流しながら倒れた。
そして悠は男の遺体を魔術で燃やした。
直後に悠は自身の心臓の鼓動が異常な程早くなっているのを感じた。そして悠の視界が揺らめきだし酷い頭痛が悠を苛み倒れ込む。そして口から大量の吐瀉物を撒き散らかして呻き声をあげる。
《人殺しの化け物が》
更にこの場には悠以外居ないのにも関わらず何処からか悠の耳には何度も何度もその言葉が聴こえてくる。悠は自身の腰のホルスターに入れているケースをなんとか取り出し、その中のカプセルを飲む。それを飲んだ直後に声はしなくなり頭痛はある程度収まり視界も安定する。
「はぁはぁ、最悪だ。俺はまた」
悠は再び魔術を発動して吐瀉物を燃やすと更にケースから別のカプセルを複数個口の中に放り込む。すると先程まで減っていた魔力がだいぶ回復した。そしてフラフラとしながらも校内を散策するが誰も人が居ないことに気づき1度校舎を出る。
(おかしい、連中は立て籠もったって話だったが本来の目的は実験材料である人間の確保だったはず。なのに何処にも人が居ないのは不自然だし大きな魔力変動も無いから転送魔術も起動していない。一体何処に)
そう考えながら校門の前に行き結界に触り解析魔術を起動した。
《アナライズ》
「そういうことかよ。空間歪曲を発動してるのは結界だけじゃなくこのエリア全域だったとは」
そう呟いて解析魔術を解除して体育館に向けて走り出し体育館のドアを蹴り飛ばして中に入ると巨大な魔法陣の上にはこの小学校の関係者が寝かされていて魔法陣の前には金髪で長髪の男が立っていた。
「おやおや気づかれてしまいましたか。八咫烏のNo.13、死神の天王寺悠さん」
「ああやっと尻尾掴んだよ。バベルのインナー。まさか、空間歪曲を校舎内に発動して更に精神干渉魔術で全て確認した。と思わせてくるとはな。でそこのクソみたいに馬鹿でかい魔法陣は転送方陣だな。でその上に寝かせてる人間は時間起動式の術式でお前らの本拠地へと送る訳だ。本当にロクでも無いこと考えてくれるなテメェら外道魔導士どもはよ」
「そこまでわかっているなら早くした方がいいと思いますよ。何せその方陣後30分で起動します。それを止めたいなら私を殺すかそれを解呪するしかありません。ですが解呪は諦めたほうがいいかと私の相手をしながらは流石に無理でしょう。」
そう言うと男は手に鉄の塊を持ちそれに魔力を流し始めた。するとその鉄の塊は徐々に巨大な人型を形成していった。
「アイアンゴーレム、お前が孤児院にゴーレムを送った張本人か」
悠は怒気を含んだ声で男に問いただす。
「ええそうですよ。材料は沢山あった方がいい。これ実験の鉄則ですよ」
「人間はな実験の材料じゃねーんだよ」
男の回答を聞いた瞬間に悠の周囲に魔術の術式が複数展開された。
「刺し穿て」
悠の呪文詠唱と共に術式が起動し蒼と紫の電撃が槍の様に形をなし男に向かって放たれる。しかし全ての電撃の槍は体が完全に生成されたアイアンゴーレムに全て防がれてしまう。それを見越していた悠はあらゆる角度から次々と
「やる気あるんですかさっきから電撃系統の魔術しか使いませんが?何も気にせず冷気や炎熱系統の魔術で攻撃すればいいじゃないですか?もしかして殺したくないとか考えてません。ずーっと校舎の様子を私は見てましたけどエルを殺した際に随分と苦しそうにされていましたよね」
そう言って男はゴーレムを操りこちらに襲いかかってくる。それを迎撃する為に悠も魔術を起動するも一歩遅く直撃する。
「かはっ」
悠は吐血し大きく吹き飛ぶ。その際に凄く鈍い音がし左手に力が入らなくなった。何本か腕の折れた。
(流石はインナー、さっきのポータルとは比較にならないな。戦闘が始まって10分経過した。でこの後コイツを倒して無力化して魔法陣の解呪するには後1分でどうにかしないと)
悠は時計を確認しながらまだ動く右手で腰のホルスターに納めているリボルバーを取り出して弾薬を詰める。そして撃鉄をおろして1発目を発射。周囲が閃光に包まれる。直後に2発目と3発目を連続で発射。その弾丸はゴーレムにぶつかった直後に爆発してアイアンゴーレムを破壊する。ゴーレムを破壊された男は魔術を行使しようとするもそこに4発目の銃弾が飛来して破裂。爆音を鳴らし相手の感覚を狂わす。そこに5発目の銃弾が飛来し再び周囲が閃光に包まれる。その瞬間に悠は一気に男との距離を詰めそこに6発目の銃弾を撃ち込む。6発目の銃弾に当たった男は意識を失いその場に倒れ込んだ。
「っち余計なことさせやがって。早く解呪しないと拙いな」
悠は魔法陣に向かい歩き出し解析魔術を起動しようとするが再び吐血してしまい一気に意識をうしないそうになる。
(今倒れたら絶対にマズい。何とか意識を繋ぎ止めないと)
しかしそう思う悠の心とは裏腹に徐々に意識を失いそうになった時に体育館のドアの方から足音と聞き覚えのある声が聞こえてきた。1人は八咫烏のNo.11の水戸坂正義。そしてもう1人は同じく八咫烏のNo.17の伊黒紀章の声だ。
「どんだけお前、此処に入るのに時間掛けてんだよ。もうちょい早く出来ただろうが」
「いや無理だあの結界はかなり高度な結界だった。その上このエリア全体を空間歪曲させていたんだ。慎重にやらねばならなかったと何度言ったらわかる。それよりも悠があそこでぶっ倒れているが」
「まぁいいや俺は悠を助けるからお前はなんかあそこにある馬鹿でかい魔法陣解析してヤバいやつなら解除しろ」
「人使いが荒いな、だがわかった」
「悠、無事か?って無事じゃねーな。魔薬を大量に飲んでんな。それに骨が何本か折れてるし。今治癒魔術で骨の方は治すからな」
「悪いな水戸坂、それにしても随分と遅かったじゃないか」
「悪いな、《星》の野郎が此処に入る為の結界と空間歪曲の解除にかなり時間かかってな」
「聞こえてるぞ水戸坂、それとこの馬鹿でかい魔法陣の解呪、完了したぞ。後はMSTに任せて俺達はそこの下手人、とっ捕まえて連行するからお前は悠を連れて病院へ行け」
そう言って《星》と呼ばれた男は金髪で長髪の男を連れて行く。
「じゃあ俺達は病院へ行こうか。智さんにはもう既に事情をMSTの方から伝えてあるから大丈夫だよ」
そう言って水戸坂は悠を背中に背負って悠自身の魔導車に乗せて病院へ向かった。
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