第1話
「武器が足らん」
帝都、浅草。絢爛極まる華街の中、橋のふもとの一等地には、多くの店が集まる。
「戦争でもやるのか」
「似たようなもんさ。軍が動かん以上、こちらでやるしかない」
「そんな話を、こんなバーでしていいもんか」
「……酒飲みの戯言としか思わんさ」
「なんて言ったか、治安新法ももうじき公布だろう」
「……そうだな」
話を切り出した男が、ぐいとブランデーを煽った。
「だからこそだ。今動かにゃならん。裏で工作はしているが、五分五分だ」
何の話かといえば、近頃巷を賑わしている、怪盗団のことだった。
帝都のあちこちに出没し、決まって鉄製品を掻っ攫っては跡形もなく消える。しかも上等なものなら、彫刻やら電灯やら、挙句の果てには鉄道車両までかっぱらっていくので、噂にならないはずがなかった。
「やっぱり、魔術師か」
「だろうな。知り合いに聞いたが、警察も軍も警戒こそすれ、よく動いてはいない、と言うんだ」
「そりゃそうだろう、憶測で動かれても困る」
「だが、事実被害は継続している。事情がどうあれ、一大事だ。動かなくては」
「それで武器を」
「いや……それはそうだが、手を変える」
そう言うなり、件の男は頭を下げた。
「なんだ」
「……どうか、奥方のお力添えを頂けんだろうか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます