第1話

「武器が足らん」

 帝都、浅草。絢爛極まる華街の中、橋のふもとの一等地には、多くの店が集まる。

「戦争でもやるのか」

「似たようなもんさ。軍が動かん以上、こちらでやるしかない」

「そんな話を、こんなバーでしていいもんか」

「……酒飲みの戯言としか思わんさ」

「なんて言ったか、治安新法ももうじき公布だろう」

「……そうだな」

 話を切り出した男が、ぐいとブランデーを煽った。

「だからこそだ。今動かにゃならん。裏で工作はしているが、五分五分だ」

 

 何の話かといえば、近頃巷を賑わしている、怪盗団のことだった。

 帝都のあちこちに出没し、決まって鉄製品を掻っ攫っては跡形もなく消える。しかも上等なものなら、彫刻やら電灯やら、挙句の果てには鉄道車両までかっぱらっていくので、噂にならないはずがなかった。


「やっぱり、魔術師か」

「だろうな。知り合いに聞いたが、警察も軍も警戒こそすれ、よく動いてはいない、と言うんだ」

「そりゃそうだろう、憶測で動かれても困る」

「だが、事実被害は継続している。事情がどうあれ、一大事だ。動かなくては」

「それで武器を」

「いや……それはそうだが、手を変える」


 そう言うなり、件の男は頭を下げた。


「なんだ」

「……どうか、奥方のお力添えを頂けんだろうか」

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