精霊のもふもふ処方箋

楠結衣

第1話


 私は猫柳の精霊。

 ピーナッツの薄皮のような蕾から白いもふもふの花穂が顔をだす。猫の尻尾みたいな花芽を触ると誰もが癒されるわ。

 

  日が暮れる頃、私の隣のベンチに相談者が座った。


「はあ、また面接失敗しちゃったな。就職出来なかったらどうしよう……」


  相談者は就職活動に悩んでいるみたいね。まずは花芽をスッと伸ばして癒してあげましょう。


「実家の猫の尻尾みたい。元気かな?」


 戸惑いながら、相談者は目を閉じてもふもふの感触を楽しんでいる。


「よし!  また頑張ろう」


 元気が出たみたいね。悩める相談者の横に花芽の枝をそっと置く。お部屋に飾って頂戴。貴方のもふもふ処方箋よ。


 猫柳の花言葉は『努力が報われる』

 希望の会社から内定を貰うのは遠くない未来。

 

 


  夕方に小さな相談者が私の隣に座る。


「お母さんなんて大きらい! 大好きなワンピースをあげようとするなんてヒドイわ!」


  相談者はお母さんに怒っている様子。今にも泣きそうな女の子に私のもふもふ花芽をそっと伸ばしましょう。


「わあ!  気持ちいい!」


  驚いて涙の引っ込んだ女の子はそっと花芽に触れる優しく指先で撫でると決意が生まれたわ。


「私、家出する!」


  家出しても寂しくないように花芽の詰まったもふもふ箱を相談者の横にコトリと置いたわ。泣きたい時は手を入れて頂戴ね。すぐに涙を止めるわ。貴方のもふもふ処方箋よ。


  猫柳の花言葉は『自由な心』

  数日後、ワンピースが鞄に変身し、お母さん大好きと甘えるのは数日後?



  空が茜色に染まる頃、もふもふな相談者が私の枝に座る。


「もう、若いにフラフラして!」


  相談者はパートナーにご立腹な様子。

 爪を立てようとするので、ゆらゆら花芽を揺らす。目を輝かせ、猫パンチを繰り出すと、猫パンチと共に怒りも去ったようね。


「不安にさせてごめんにゃ!  あのは断ったよ」

「……ほんとに本当にゃ?」

「君のもふもふにしっぽたけなんだ。一緒に帰ろう?」

「にゃあ」


  あらあら特効薬が来たみたい。貴方のもふもふ処方箋は無くていいわね。


  猫柳の花言葉は『気まま』

  もふもふな相談者に可愛いもふもふ達が生まれるのは恋の季節のあと。



  貴方ももふもふ処方箋を貰いたくなったらいつでもいらっしゃい。

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精霊のもふもふ処方箋 楠結衣 @Kusunoki0621

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