記憶の運び屋

紡月 巳希

第十九章

最後の運び屋


「…愛してるよ、スミレ…!」

シャドウの叫びとともに、狂気に満ちた手がアオイに迫る。その時、カイトは迷うことなく、彼の体に体当たりした。衝撃で壁が揺れ、シャドウの体がよろめく。

「カイト!」

「アオイ、早く離れろ!」

カイトはシャドウの腕を掴み、そのまま奥の壁に押し付けた。シャドウは抵抗するが、カイトは渾身の力を込めて彼を抑えつける。

「なぜだ!なぜそこまで邪魔をする!」シャドウの顔が憎悪に歪む。

「君が盗んだのは、スミレさんの記憶だけじゃない。彼女が守ろうとした人々の、希望の記憶だ。それをこれ以上、歪ませはしない」

アオイは、その二人の男の間に立つ。一人は自分を育てた父、一人は自分を救ってくれた父。どちらも失いたくないという感情が、彼女の中で激しくぶつかり合っていた。

その時、アオイが持っていた木箱か激しい光を放ち始めた。光の粒が、シャドウの体から分離した影へと流れ込んでいく。シャドウは苦悶の声を上げ、影から無数の悲鳴のようなノイズが漏れ出した。

「馬鹿な…この記憶の海を…全て受け止めようと!?」

シャドウの言葉に、カイトは力強く頷いた。

「それが、僕の最後の仕事だ」

カイトは、自分の両手でシャドウの影を掴んだ。光の粒は、まるで津波のようにカイトの体に吸い込まれていく。カイトの体は、膨大な記憶の渦に飲み込まれ、その輪郭が少しずつ淡く揺らぎ始めた。

「アオイ…行け!これが、最後に…君がすべきことだ!」

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記憶の運び屋 紡月 巳希 @miki_novel

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