「僕を殺して、君は神になる~『殺していいよ』と勇者は言った。 だから聖女は、勇者を愛した~」

 空が青い色を見せなくなってから、どれだけの年月が経過したか。

 幼い子どもたちは、空が青い色を見せることを知らない。

 幼い子供たちにとっての空の色は、灰のように薄暗い。


「勇者を呼べ!」


「勇者を呼べ!」


「勇者を呼べ!」



 群衆が騒ぎ立てる音に耳を引き裂かれそうになり、私は思わず自身の耳を塞ぐ。


「こんな世界……滅びてしまえばいいのに……」


 異世界から勇者を呼ばなければ助からない世界なんて、滅びてしまえばいい。

 異世界から勇者の力が必要な世界なんて、存在する意義すらない。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 どんなに耳を塞いだところで、野次とも捉えられるような勇者を呼ぶ声は止むことがない。


「もう……やめて……」


 世界を生きる誰もが願っている。

 世界を生きる誰もが求めている。

 勇者と呼ばれる存在を。


「助けて……助けて……」


 口にしてはいけない言葉がある。

 それが物語の始まりとも知らずに、私は神に助けを乞う。

 それが物語の終わりとも知らずに、私は自分が助かる言葉を口にした。


「ここは……」


 死の灰が、降り積もる。

 雨は降らない。

 雪も降らない。

 この世界の空は、ただただ灰を降らせる。


「ようこそ、お越しくださいました」


 生きる意味が分からない勇者様。

 元の世界に帰りたいという願いすら抱かない勇者様。


「私に殺されるために生まれてきた勇者様」


 この世界を救うために、どうか命を落としてください。

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