猫の体温
- ★★★ Excellent!!!
猫の9つの命という民間伝承が、この作品では風に散る花びらのように、一つずつ静かに消えていく。
冷たい屋上の縁。
乱れる髪。
何も映さない瞳。
繰り返される風景の中で、小さな体に宿った執念だけが、炎のように揺らめき続ける。
ループものの主人公を猫にする——この選択の美しさ。
言葉を持たない者の愛は、裾を噛む力の強さに、泣き叫ぶ声の切実さに、咥えた花びらの色に宿る。
人間なら理屈で組み立てる救済を、猫は本能と体温だけで紡いでいく。
八つの失敗が、まるで階段を一段ずつ登っていくように積み重なる。それとも、降りているのか。
爪で。声で。花で。体で。温もりで。
そして最後には——。
命を費やすたびに、瞳の奥に宿る想いは深く、濃く、研ぎ澄まされていく。
十四歳の冬から始まった物語が、数十年後の夏へと続いていく。
猫の短い一生という砂時計と、人間の長い時間という大河。
その対比の中で、見守るという行為の重みが、静かに、確実に、心に沈んでいく。
命を燃やし尽くして掴んだものの輝き。
種を超えて伝わる温もりの奇跡。
読後にずっと、胸の奥で小さな体温のように灯り続ける物語でした。
何より、栗パン先生の描くネコちゃんは、可愛くて、カッコよくて、とても愛らしいです。