八 

 織田信忠は他の武田家の城を落としたように、まずは黄金と書状を送って降伏勧告を行ったが、高遠城主の仁科盛信が断固拒否をしたことにより織田軍は総攻撃を開始した。織田軍は東西南北すべての城門から攻撃を開始した。オレは西の城門に陣取り武田軍をサポートする。サポートしたところでこの兵力差ではオレが前面に出ない限り織田軍を跳ね返すことなど絶対にできない。それでもオレはやらなければならない。理由はわからないがとにかくだ。


西の城門も持ちそうもない。


仕方ねえ。

行くか!


オレは城門を攻撃する織田軍の兵たちの前に無防備な姿を晒す。忍びなんて大抵無防備だ。無防備のほうが相手が油断をする。油断をすれば死角や隙が生まれる。


「お侍様がた、助けてくれませんか?」


オレの言葉に前線の兵たちはいきり立つ。


「仕方ねえお侍様がただね。風魔の疾風相手にそんなになっちゃって」


オレはフッと笑い忍び刀を抜く。


「あ、もう一度だけ言うよ。助けてくれませんか?」


織田軍の兵たちは狂ったようにオレに斬り掛かってくる。


仕方ねえ。


「風魔忍術 疾風土斬!」


オレの斬撃は城門前の土を巻き上げ織田軍の兵たちを一気に葬り去っていく。


「だから助けてくれって言ったのに……」


 城門前の敵兵を一掃して一休みしていると騎馬武者が一騎向こうから城門に向かってやってくる。


「小次郎殿ではございませんか?」


よくよく見てみると今回の織田信忠の世話役の滝川一益ではないか。


オレが知らんぷりをしていると滝川一益は下馬してこちらに来る。


めんどくせえなあ。


「おお、これは滝川殿ではございませんか。武田の城に何か御用でも?」


オレがそう言うと滝川一益は苦笑いをしている。


「小次郎殿、そこをおどきください」


滝川一益の言葉にオレは首を横に振る。


「桶狭間の恩人ゆえこちらも優しく申し上げています。そこをおどきくだい」


滝川一益がそう言うとオレは鼻をほじり放屁をする。


「ぐぬぬ、愚弄しおって!」


滝川一益は憤り、オレに斬り掛かってくる。


「風魔忍術 幻影牢獄!」


オレはあっという間に滝川一益を捕らえ丸腰にして城門の上に連れ去った。


「おい、返してほしかったら信忠を連れてこい!」


オレは織田軍の兵たちを煽った。滝川一益はというとオレの幻術に放心状態である。


 しばらくすると、織田信忠が西の城門にやってきた。


「遅えんだよ。信忠!」


滝川一益の口から暴言が飛び出す。滝川信忠はただただ立ち尽くす。もちろん滝川一益の暴言はオレの幻術にかかっているのが原因なのだが⋯⋯。


さて、織田信忠どう出る?


 重臣に暴言を吐かれた織田信忠は我に返る。


「おい、そこの忍び」


オレはキョロキョロ辺りを見渡す。


「お主だよ。こんな茶番が某に通じると思ったか?」


「思うも何も総大将と副将がここにいる時点で十分だよ」


織田信忠の言葉にオレは煽る。


「そこまで言うな……」


織田信忠に最後の言葉まで言わさずに背後を取る。


「そこまで言うならやってみよですかな、信忠!」


オレは織田信忠と滝川一益を捕らえて城門の上に陣取る。もちろん織田信忠と滝川一益は幻術の中。


でも、おかしいぞ。

これだけ好き勝手やってるのに……。

リセットもかからなければ、ヴィルが注意にも来ない。


「早手いるか?」


「ここに」


いるのかよ。

いるなら、止めるか注意するかどっちかしろ!


「雪舟とヴィルは?」


「何やら口喧嘩を始めて何処かに行きました」


そういう大事なことは早く言え!


あれ、じゃあ⋯⋯。

この二人をここで殺してもリセットされないんじゃねえか?

でも、織田信忠は本能寺の変のキーマンだし、滝川一益は天目山の戦いのキーマンだしな……。


めんどくせえ。

殺っちまえ!


オレは忍び刀を抜き、まずは滝川一益に狙いを定める。

定める。

定める。


ん、なんだよ。

身体が動かない。


仕方ねえ。

じゃあ、今度は織田信忠に狙いを定める。

定める。


やっぱり身体が動かない。


ひょっとして小次郎の潜在意識なのか……。


もういい。

さて、これどう収拾するか……。


「早手、早手!」


オレの言葉に早手は驚いたような顔で出てきた。


出てきたって?

出てきたって表現が一番合ってるんだよ。

空間の裂け目からひょっこり出てきたんだよ。


「いかがしましたか?」


「早手、これお前だったらどう収拾する?」


早手はクスリと笑ったが答えてくれた。


「某にはわかりませんが、歴史上はどうなっておりますか?」


オレは少し考えて答えた。


「この二人はこの後の重要な歴史事件の中心人物。この城は間もなく落城。城主の仁科盛信は斬首ってとこかな」


「そこまでわかっているのであれば、そのようにされたらよろしいのでは……」


そうだね。

ん、違う?

違う!


「そうすればいいのはわかっているんだよ。だけど……」


オレは口ごもる。


「だけど? ああ、大丈夫ですよ。小次郎様でしたら……。某も含めたすべての人の記憶が改ざんされますから」


そうなの?

早手、その半笑いはやめろ!


それじゃ、やり直し。オレは白光眼を開いて幻術に囚われいる織田信忠と滝川一益を織田軍本陣につれていって、そこで二人を解放する。


よし、これで完了!


オレはふたたび高遠城の西の城門に戻っていく。そこで白光眼を閉じる。


あれ?

あれ!


これって、リセットと一緒じゃねえか?


織田軍は態勢を整えてふたたび西の城門を攻撃し始める。すると、一刻もしないうちに西の城門が突破されてしまった。オレはそれをただ西の城門の上から眺めているだけ。


これでよかったんだよ。

これで。

歴史なんて変えたって……。


歴史が変わったら荘介やゆきなとさよはどうなるんだ?

やっぱり、歴史なんて変えないにこしたことないんだよ。


オレは自分の行為を正当化させるため言い訳を重ねる。


これだけの人々が殺されるのを目の前にしていいわけねえだろ!


オレは胸が張り裂けそうな気持ちになって、その場を立ち去った。

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