六 

 どうやら伊賀衆が集まりかけているところ。比自山城ということは第二次伊賀攻めで間違いない。おそらく平楽寺ではゆきなとナオが異変に気づき籠城の準備の手伝いでもしているんだろう。多分。まだピクニックとか……。ギャルだけにそんなことないとは言い切れない。


オレは平楽寺に急ぐ。オレがリセットを使えたことは後で考えよう。今はゆきなの安否だ。やがて、平楽寺に到着したがゆきなたちの気配をキャッチできない。人が多いせいなのか……。


見つけた!


オレの視界の端におにぎりを頬張る二人のくノ一が映る。


あの能天気が!


オレは二人の元に駆け寄る。


「おい、バカくノ一ども。こんな状況でピクニックとは能天気にも程があるぞ」


「はあ、女子会に男子とかうざいんですけど」


ナオがオレを煙たがる。


「まあ、あたしが浮気してないか心配して来ちゃうなんて。小次郎、愛が重いよ」


ゆきながオレをからかう。


「お前ら……」


オレは二人のボロボロになった遺体を思い出し、その場で泣き崩れた。


「よかった。本当に……」


平楽寺近郊の林にオレの泣き声が響き渡る。


 オレはゆきなとナオを連れて平楽寺に入る。本当このくノ一どもは能天気な奴らだ。みんなが籠城の準備で忙しなく動いているのを尻目にピクニックの続きを始める。さっきのオレの涙を返してほしい。


籠城している人々はオレの見立てでは非戦闘員も含めて千二百。白光眼を自由に使えない状態ではオレ一人では守りきれない。確か平楽寺攻めの総大将は蒲生氏郷だったはず。蒲生氏郷程度であればオレが直接手を下したほうが早いような気がする。気がするのだが、何か忘れているような気がする。


ゆきなとナオのピクニックは無事終わったようで二人は食後のお昼寝タイム。こんな喧騒の中、熟睡できる奴がいるんだってくらいイビキをかいて寝ている。


オレは見晴らしのいい場所に移動して周囲をうかがう。


来た!


あの旗は蒲生と筒井。まあ、オレの敵じゃねえ。


織田軍はあっという間に平楽寺を包囲してしまった。


「どうやら包囲して兵糧攻めにでもするようね」


ナオの言葉にオレは首を横に振る。


「はあ、このクソギャル。JKだったらちゃんと学校で勉強しろよ。総大将の織田信雄は信長の待機命令を無視して後でこっぴどく怒られるって有名な話だろ」


オレがそう言うとナオは首を横に振って目を充血させながら反論する。


「はぁ、ギャルに勉強ってあんたバカ! ギャルが勉強して何が面白いんだ!」


喧騒の中、三人のバカ話が響き渡る。


 オレは夜を待つ。どうやら伊賀衆が蒲生氏郷を夜襲するという企てをキャッチしたからだ。オレがやったらリセットされることもサポートするだけならリセットされないのは金ヶ崎で実証済み。もっともオレがリセット使いになったという可能性も捨てきれない。


伊賀衆が夜陰にまぎれて蒲生氏郷がいる本隊に奇襲をかける。今回はオレのサポートがなくても夜襲は成功しそうだ。無駄足になったがこれはこれでいい。


夜襲が成功したのを見届けてオレは平楽寺に戻るために歩き始めた。


 天正九年九月二十七日、織田軍は伊勢地口、柘植口、玉滝口、笠間口、初瀬口、多羅尾口の六方より侵入して戦闘が開始された。伊賀衆は比自山城と平楽寺に籠城した。平楽寺を攻めるのは蒲生氏郷。一度は蒲生隊を伊賀衆は退けるが、滝川一益の援軍により平楽寺は陥落目前であった。


のんきにピクニックをやってる暇はない。織田軍が伊賀の国に侵攻してきて、ここ平楽寺は陥落目前。先ほど門の方で大きな音がした。おそらく織田軍に門が突破されたのだろう。ここに織田軍の兵たちが来るのも時間の問題だろう。


 織田軍が境内に入ってきた。どうやら滝川隊のようだ。猛将率いる部隊だけあって圧倒的な勢いだ。前線に打って出た。


「ゆきな、ここは頼むよ。オレは打って出る」


「わかったよ。あたしはここを死守するよ」


オレは忍び刀を抜き滝川隊に襲いかかる。籠城戦では派手な忍術は使えない。とにかく斬って斬って斬りまくる。それだけ。滝川隊を百は斬っただろうか。一人の猛将がオレの前に立つ。


「ワシの名は滝川一益。なかなかの手練だな。ワシが直々に相手をしてやろう。名を名乗れ」


どうやら大将のお出ましらしい。


「オレの風魔の疾風、風魔小次郎。いざ尋常に勝負!」


「小次郎? 風魔の疾風と勝負などできぬ⋯⋯。退いてはくれぬか」


滝川一益はオレにそう言って刀を鞘におさめる。


「そうか⋯⋯。じゃあ、お前もここから退いてくれ」


「それはできぬ。上様の命で某はここにいる」


滝川一益はそう言ってオレに頭を下げる。


「じゃ、決まりだ。お前とオレ、どっちが強いかで決めるしかねえ!」


オレはそう言って滝川一益に斬り掛かっていく。


「仕方あるまい。話が通じないのであれば⋯⋯」


滝川一益は抜刀してオレの一太刀を受けきる。


大太刀と忍び刀か⋯⋯。

分があまりにも悪すぎる。


「風魔忍術 疾風斬!」


オレは忍び刀に疾風を纏わせ、滝川一益の大太刀へと叩きつける。


「ぐぬぬ!」


滝川一益の唸り声が平楽寺に響き渡る。


「一益、お前みたいな老いぼれではオレには敵わないんだよ! さっさと尻尾を巻いて逃げ出したほうがいいぞ」


オレは滝川一益を挑発する。


「ぐぬぬ、小次郎。間者の分際でよくも!」


滝川一益の上段からの大太刀がオレを目掛けて唸りを上げて振り下ろされてくる。


うわっ、あっぶねえ!


滝川一益の渾身の一振りがオレの鼻先をかすめていく。滝川一益との鍔迫り合いが続きオレはだんだん押されれ気味になる。そりゃ、大刀と忍び刀では圧倒的に分が悪い。もっとも忍び刀だから猛将の攻撃を凌いでいるというのは否定できない。

やがて、オレと滝川一益の戦いにも決着の時はやってきた。オレの忍び刀が一益の大刀に押し負けて後方に飛んでいく。オレはそれを追っていく。


「これで終わりだ。風魔の疾風!」


オレの背後から滝川一益の怒声が響いてくる。


「そうだね。終わりにしよう。風魔忍術 疾風手刀!」


オレは振り向きざま、右手を滝川一益の胸に向かって突き上げた。滝川一益の胸から血しぶきが上がった瞬間、目の前がグニャリと歪んだ。

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