三 

 天正六年、織田軍が丸山城の修築を開始し、伊賀衆は総攻撃を開始しこの修復を阻止した。この騒動が伊勢の織田信雄の怒りを買い、翌年伊賀攻めが起こる。オレはこの時、例の寺で例のごとく意識不明となっていた。


ある夜更けのこと。


「旅人よ……」


オレの意識の深いところに響く声。

道舟だ!


「すぐに伊賀に行きなされ」


オレは無視を決め込む。


「そなたのこの旅の目的がわかるであろう」


エコーを残してその声は消えていく。オレは目覚めて起き上がり寺の外に出て、暗闇の中を伊賀に向かって走っていった。


 時は天正七年九月、前年の丸山城修復への伊賀衆による妨害に腹を立てた伊勢の織田信雄は信長に無断で伊賀攻めという暴挙に出る。


 オレが伊賀の国に入る頃には織田軍は三方から伊賀の国に侵攻していた。ここでのオレの役割ってなんだろう。道舟に言われて来たのはいいが、全く自分の立ち位置が見えない。そもそもここには信長は居ないのだ。


信長が居ないのにオレがここにこだわる理由って何だ? 

道舟に言われたから⋯⋯。

それも違うような気がする。


そもそも今回の伊賀攻めは織田軍が敗北するわけだからオレは参戦しなくていいような気もする。


 オレは戦局を見守るために伊賀の国を飛び回った。なんてたって今回は伊賀の国を三方から攻めているんだ。戦線が至るところに拡大している。伊賀衆の夜襲や松明を用いた撹乱作戦や地形を活かした奇襲などのゲリラ作戦で織田軍は多くの兵を失い 伊勢へ敗走していく。確かそれが今回の伊賀攻めの概要だったはず。オレの知ってる歴史では⋯⋯。


 オレは百地砦に到着した。なぜここに来たのかというと知ってる気配が複数あったのでここに引き寄せられたのである。もちろん、小助やナオ、そして前回ここに来た際に出会った伊賀衆である。オレは小助に近づいていくと小助もオレに気づいた。


「風魔がここになんのようだ?」


小助がオレに突っかかる。


「道舟がすぐに伊賀に行けと言ってきたんだよ。オレも来たくてきたわけじゃねえ」


オレがそう言うとナオが近寄ってくる。


「おいこら、声がでかいんだよ。敵に気付かれるだろ」


すでにオレに気付かれている時点で敵にも気付かれているんじゃねえのか⋯⋯。


オレはそのまま百地砦で待機した。こんなところで待機ではここにわざわざ敵が突っ込んでこなければ戦闘になることはない。そう、戦闘になるはずがなかったのであるが、伊賀衆はくねくねと曲がった地形を巧みに利用し、織田軍を奇襲や夜襲で翻弄した。その結果、信長にも重きを置かれる重臣の柘植保重の軍勢が平楽寺攻略の援軍としてこの地を強襲することになった。


オレは百地砦を出撃し、鬼瘤峠へと向かって暗闇の中を走っていく。オレは鬼瘤峠に到着するや否や織田軍と会敵した。まあ、忍び一人と会敵したところで軍勢が止まるはずもなく、オレはおもむろに忍び刀を抜刀した。


「名を名乗れ! 間者風情が」


織田軍の先鋒の騎馬武者がオレを罵倒する。


「はあ⋯⋯、伊賀に攻め込んでおいて間者風情ですか? この国は間者ばかりの国⋯⋯」


オレの言葉に先鋒の騎馬武者はいきり立ち、オレに斬り掛かってきた。


「おのれ⋯⋯愚弄しお⋯⋯」


オレは相手の言葉を最後まで聞かずに雷撃を発動する。


「風魔忍術 電光石火!」


オレの右手から放たれた雷撃はまばゆい光を伴い先鋒の騎馬武者を襲う。雷撃を食らった先鋒の騎馬武者を含み織田軍は十人ほどが前のめりに倒れ込んでいった。大将格らしき男が叫ぶ。おそらくこの男が柘植保重だろう。


「コヤツ、妖術使いだぞ。気をつけろ!」


気をつけて、どうにかなるなら風魔を廃業したほうがいい⋯⋯。


オレは右のかいなに力を込めてその腕を天に突き上げる。


「風魔忍術 雷光!」


オレの右のかいなから放たれた蒼白い光は鬼瘤峠を真っ昼間のような明るさへとしていく。織田軍がその光景に呆気にとられているうちに、オレは疾風を使って大将の柘植保重に迫るために織田軍の兵士をたて続けに撫で切っていく。あと一息で柘植保重に辿り着こうという時に、柘植保重は大声で叫ぶ。


「間者などにくれてやる首級くびなどないわ。この首級くびを織田信雄様に持っていけ」


柘植保重は自らの首を斬ってしまった。オレが呆然としている隙をついて織田軍はその首級くびを持ち去って伊勢に向かって逃げていってしまった。


自らの首だぞ。

自らの首を斬って、それを部下が持って逃げる?


狂っている⋯⋯。


やはりわからん。

道舟がオレをここに来させた理由が⋯⋯。

この旅の目的って、自ら絶命したことと関係あるんじゃないのか?


伊賀衆も引き払った頃、事態は動いた。雪舟が現れたのだ。


「こんなところでお会いするとはね。奇遇ですね」


オレの言葉に身体をピクリとさせ雪舟はこちらをうかがう。


「咎人か……。僧侶が死者を弔うのがおかしいか?」


「死者を弔うというならオレも弔ってほしいもんだね」


雪舟の言葉にオレは苛つく。


「お主は死者ではない。咎人だ。こんなところにいないで、さっさと自らの役目を果たせ」


オレの役目?


「道舟からここにくるように言われた。オレの旅の目的がわかるって。オレの役目と関係するのか?」


雪舟が黙り込んでいるのでオレは言葉を続ける。


「あんたたちはオレに何をさせたいんだ!」


オレの苛立つ言葉に雪舟は口を開く。


「お主、未だに自らが何者かも分かっておらんのか」


「単なる転生者じゃねえのか」


「単なる転生者……」


オレの言葉を聞き、雪舟は笑う。


「この世のすべての民は転生者だ」


すべての民が転生者?

こいつ何言ってんだ。


オレが考え込んで黙っていると雪舟が言葉を続ける。


「ただな。極稀に未来から転生してくる者のがいるのだ。ヴィルヘルムの様にな」


オレは首を傾げる。


「オレもじゃねえのか?」


「お主は転生などしておらん」


ん?


雪舟の言葉にオレは戸惑う。

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