5話

 私のつぶやきを拾ったのかどうか、ロボットはふよふよと近づき、柔らかい音で声を響かせた。


「ご安心ください。あなた様は適格者です。外敵から守られるべき、ただ一人の存在です。」


 その声音は淡々としていながら、奇妙に温かみがある。だが、今の私にはそれがどうしても素直には受け取れなかった。


「守られるべき……?私が?」

思わず口をつく。声は乾いていた。


ロボットは言葉を継いだ。

「はい。あなた様の意思を尊重し、最も快適な環境をご提供いたします。必要であれば、衣食住すべてを調整可能です。」


 その説明は、まるで高級ホテルの案内のように丁寧だった。だが、漂う機械の目のような光が私を捉えているのを見ると、どうしても「監視」という言葉が頭をよぎる。


「……意思を尊重、ね。」

低くつぶやく。だが本心では、信用できないという思いが膨らむばかりだった。


ロボットは小さく光を瞬かせながら続ける。

「恐怖や不安を軽減するための調整も可能です。ご希望があれば、すぐに環境を最適化いたします。」


 その物言いは徹底してユーザーフレンドリーで、協力的ですらあった。だが、今の私にはそれすらも「心を操作されるのでは」という疑念に変わる。


「……私を守るって言いながら、縛るつもりなんじゃないのか。」


ロボットは一瞬だけ沈黙し、次に発した言葉は変わらず淡々としていた。

「縛る、という意図は存在しません。ただ、あなた様の安全を第一に優先するのみです。」


 その声には一片の揺らぎもない。だからこそ、私は余計に不気味に感じた

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ハ、コ? ごましお @Grimace52

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