今日、クラスメイトの女の子が口紅を塗ってて目が離せない

テルヤマト

あっ、と心の中で呟いてしまった。


窓辺の席に座っていた“あいつ”。

女友達数名と楽しくお喋りをしていた彼女をふと眺めてしまって、俺は気が付いた。


いつも野暮ったくてぱっとしないようなあいつの顔が、今日だけやけに艷やかに見えた。


どういうわけか大人っぽくて、色っぽい。


今まではそんなこと感じたことないのに、どうして今日だけあいつの白い肌の上で一瞬赤く煌めいたように見えた。


あぁ、そうか。あいつ、今口紅塗ってるのか。


ほんのりラメが混じって淡い赤味を帯びた唇。


昨日までのあいつとは別人に見えた。


どうして……いきなりあんな……。


呆けたように見つめていると、ふと振り返ったあいつと視線がぶつかったような気がして、思わず顔をそらしてしまう。


「コラ、何してる。早く席に着け!」


いつの間にか後ろに出席簿を持った担任が立っていて、「やば」と気まずい声を上げる。


クラスメイトたちが慌ただしく自分の席に向かうのに紛れ、俺はあいつと教壇の前でばったりと出くわす。


「なぁ、お前さ」

「………早く席に着いて」


いつもならもう少し突っかかるのに、今日はやけにしおらしい。


俺とあいつの席は隣同士だ。だから俺はあいつの後ろを追いかけていけた。


「ちょっと、聞いていい?」

「…………」

 

もうすぐ席だというのにあいつは振り返りもしない。


「ほら、出欠とるぞー」


黒板辺りで担任の声が聞こえる。


周りの生徒たちの殆どは自分の席に座れてる。


「お前さ、もしかしてだけどさ今日――」

「――違うから」

「はっ?」


先に席に座ったのは俺だ。


あいつは自分の席の前で座るのを少し躊躇ったように見えた。


「別に、あんたに見せたかったわけじゃないから」


あいつは少し口元を手で隠しながら席に座る。


「そっか……」


俺は少し落胆したような声を上げた。ともすれば、気が抜けたのかもしれない。


「ちょっと似合ってるなって思ったのに」


そんな感想をポロリと零してしまった。


「………なに、言ってんの、バカ」


少し詰まったあいつの声。


俺は横をちらりと見て、気が付いた。


あいつの耳が唇なんかよりずっと赤く染まっていたことに。


熱くなって、恥ずかしくなって。


いつの間にか、俺も同じ色に染まっていたことに気が付いた。


 

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今日、クラスメイトの女の子が口紅を塗ってて目が離せない テルヤマト @teruyamato

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