第4話

「ほれほれ、はやくしろ~。」


 彼女は僕の背中を押す。


「今僕は...神に...祈ることを...覚えたよ。」空言のように宣う。鏡こそないが、僕の目には焦点がない。いや、あっていないだけか。


「お、いい心掛けだね。私という神に捧げる祈りは、具体的にはもので示してもらおうかな。」


 背面後方、肩から顔を覗かせた彼女は、にやにやと笑みを浮かべている。蠱惑の笑み。罠にかけられた僕は落ちていく。実際に斜面からこける。


「なんでいきなり...山なんだ....遊びに行くだけなら...ほかでも...」途切れ飛切れ、不満をあらわにした僕に、彼女はニヤッと語り掛ける。


「なんで、とか、いきなり、とか...そういう言葉が出てくるのは、君が理由がないと行動に移せないからだ。自分の尺度が先行して、世界を見ようとしていない。」


 ぐさりぐさりと言葉が刺さる。彼女の正論は、やけに咀嚼の時間を要する。

 

「じゃあ...ここまできて...理由がないってこと?」心が折れそうになる。彼女が「今から遊びにいくぞ。」と短く言い終わるや否や、僕を連れ出し、のしのしと歩いていく。その背中を追って、整備されたとはいえ山道を1時間以上歩いた。


「ここの上に神の子を祀る神社があるんだが、あまりにも君は疲れすぎているな。元体力つけたほうがいいぞ。」


 彼女は凛として答える。その言に恨めしい視線を送ることしか出来ず、僕は思わず立ち止まる。


「...まあ、ここでもいいか。ちょっとこっち来なよ。」そう言って彼女は道の脇に近づく。整備されているとはいえ、向こう側に落ちたりでもすれば...


「危ない!!」僕は思わず叫ぶ。彼女はグラグラと道路沿いのガードレールに身を乗り出していたためだ。


 気が付いた時には駆け出し、彼女の手を、今度は自分から握っていた。


 その様子に気が付いた僕は、思わず手を離す。思いっきり力を込めてしまっていたためだ。


 それをみて彼女は起こるでもなく、泣くでもなく...


「ごめん、ごめん。....でも、自分の死には無頓着なのに、私の死には関心あるみたいだね。」ニマニマと彼女は嗤う。


「......二度とするなよ。」僕はそう吐き捨てるように呟く。腹が立った僕は、踵を返そうとする。


「怒らしちゃってごめんなさい。でもきっとそれが答えだよ。」


 神様は悲しそうに微笑んだ。瑪瑙のような瞳と閉じた。

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