【短編】狐がくれた時間

Noname

狐がくれた時間

教室の後ろ、窓際の席に、小さな狐のお面を置いた彼女がいた。

誰にも言わず、ただ静かにそれを見つめる顔。

深呼吸してつぶやいたみたいに、「時間を貸して」と。


休み時間の空気が止まったようだった。誰も何も言えない。

だって、時間を貸すって、どうするの?笑いたいのに笑えなかった。


放課後、私がそっと声をかけた。

「時間、貸せるなら、返さなくていいよ」って。

すると彼女は少し驚いて、お面を手に取りながら言った。

「それ、知ってるの?」

その一言だけで、私たちの間の風景が変わった。


短くてほんの一瞬の放課後の会話。

それだけで教室の空気はふわっと軽くなって、

時間って、返すものじゃなくて、“共有するもの”なんだ、って思った。


狐のお面は、笑顔をくれた。

たぶん、私にとっても、彼女にとっても、ちょっと特別な時間だった。

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