異世界国家大会

@chanponn

第1話 《契約の光剣》

召喚


「はぁ……俺、何やってんだろう」


放課後の教室。

窓際の席に腰を下ろしたまま、天城光一(あまぎ こういち)はつぶやいた。

部活にも所属せず、帰宅しても特にやることがない。

毎日が同じで、特別なことなど何も起きない。


そう思っていた、その瞬間。


机の上に、光が走った。

幾何学模様が浮かび上がり、光一を取り囲む。


「な、なんだこれ──!?」


視界が白に染まる。

次に目を開いた時、彼は巨大な石造りの広間に立っていた。



異界祭


「異界の勇者よ。よくぞ参られた」


白い衣をまとった神官が告げた。

その背後には玉座があり、王冠を戴く男が座っている。


「ここは神聖王国ルクス。汝は百年に一度の《異界祭》に挑むため召喚されたのだ」


「……い、異界祭?」


説明によれば、百年ごとに各国が異世界から戦士を呼び寄せ、最強を競い合う。

勝利した勇者には──「ひとつだけ願いを叶える力」が与えられる。


光一にはすぐに願いが思いつかなかった。

だが夢のような話を前にして、頭の中は真っ白だった。



パートナー


「勇者よ。汝の伴侶を迎えよ」


神官が杖を掲げると、光の卵が浮かび上がった。

ぱきん、と割れ、中から光が飛び出す。


小柄な少女の姿だった。

白銀の髪、透明な羽。年齢は十歳ほどに見えるが、澄んだ蒼い瞳が印象的だった。


「……ひ、人間?」

「私はリュミナ。あなたと共に戦う存在」


小さな体で胸を張り、そう名乗った。


「武器……なのか?」


光一の問いに、彼女はむっと頬を膨らませた。


「違う! 私はあなたの仲間。心を重ねれば、どんな敵にも立ち向かえるの」


あまりに真っ直ぐな声に、光一は思わず息をのんだ。



試しの戦い


「では、力を試させてもらおう」


広間の扉が開き、鋼鉄の巨獣が現れた。

赤い目を光らせ、咆哮を上げる。


「な、なんだあれ!」


さらに別の陣から現れたのは、銀髪の少年。

彼は冷たい目をして、自分のパートナーを無理やり武器に変形させた。


「俺はアラン。道具は命令すれば動く。ただそれだけだ」


少年は剣を振るい、機械獣に斬りかかる。


その様子を見て、光一は思わずリュミナに目を向けた。


「俺たちも……やらなきゃ駄目なんだよな」


「うん。でも、私は道具じゃない。信じて、共に戦おう」


リュミナの瞳は、まっすぐだった。



契約


機械獣が腕を振り下ろす。

光一はとっさにリュミナを抱きしめ、叫んだ。


「俺が守る……絶対に!」


その瞬間、光が弾けた。


『契約成立──融合進化』


リュミナの体が溶けるように光一へと重なっていく。

光の羽、白銀の鎧、そして眩い剣がその手に。


「これが……俺たちの力……!」


「行こう、光一!」


二人の声が重なる。


聖剣が輝き、振り下ろされた一閃は、鋼の巨獣を真っ二つに裂いた。


爆炎の中、機械獣は崩れ落ちた。




「はぁ……倒した、のか」


剣が消え、リュミナが再び隣に現れる。

小さな体で嬉しそうに笑った。


「ね、言ったでしょ? 私は仲間だって」


光一は深く息を吐き、彼女を見つめる。


「……ああ。これからよろしくな、リュミナ」


彼女は満面の笑みを返した。


こうして、ごく普通の高校生と光の精霊は出会った。

そして彼らは、仲間として共に進化し、戦う。


──百年に一度の大祭異界祭の幕が、いま上がったのだ。

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